電気馬
作家 津島 佑子(太宰治の次女)の短編集。
雪女、山姥、アマノジャク、葛の葉狐のような伝説や、人買い、人身御供、継子いじめのような伝承をモチーフにした10作品が収録されている。どれも10から20ページ程度と短いが、日本人の集合的無意識としての心象風景を、読者の心に強烈に焼きつける。象徴を生みだす元型の力を作家が効果的に引き出している。
語り口が巧妙だ。例え話をしているようで実際の話を語っていたり、遠い昔の話かなと思えば進行中の話だったり。読者はいつのまにかバーチャルとリアルの越境をしていることに気がつかされる。夢うつつの状態で目の前の細部が消えていき、遠い昔の記憶、原初の体験の世界と二重写しになる。
表題作「電気馬」とは人間が抑圧に耐えかねてキレるときに心の中で爆発する衝動的な力だ。それは遠い昔に遊園地の電気仕掛けのメリーゴーラウンドから飛び出した一頭だという。人間達が楽しむきらびやかな場所にいながら、馬はずっと固定され自分の好きに動くことが許されなかったのだ。馬は危うい人の心に飛び込んで狂気の衝動を駆動させる。
「この電気馬が消えても、新しい電気馬がつぎつぎに生まれる。にんげんがだれかと出会い、なにかを期待し、裏切られ続けるかぎり。」
この話だけ日本の古い伝承に無関係かなと思ったが、遊園地にメリーゴーラウンドという設定自体がもはや伝承ということか。今はテーマパークにアトラクションやパビリオンの時代だから。
10作すべてはずれがなく安心して読めるのだが、なかでも私のお薦めは、
1位 チャオプラヤー川
2位 サヨヒメ
3位 アマンジャク
だな。イメージが焼きついてしまった。
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