となりの車線はなぜスイスイ進むのか?――交通の科学
車を中心にした交通の科学研究。
興味深いデータが満載。
「交通については、おもしろい法則がある。世界中で移動に費やす時間は、ほぼ同じであることだ。アフリカの村でもアメリカの都市でも、一日あたりの往復通勤時間は1.1時間程度である。」
「カーネギーメロン大学の調査によると、走行距離1億マイルあたり、男性は1.3億人死ぬが、女性は0.73人である。男性は1億回走行あたり14.51人死ぬが、女性の場合は6.55人である。そして男性は1億分あたり0.7人死ぬが、女性の場合は0.36人である。」
「通勤時間が延びている地域は最も所得格差が広がっている地域である」(アスペン効果)
「おもしろいのは、『慎重ぐるぐる派』は時間をかけて駐車スペースを探したあげく、距離の点でも歩く時間の点でも『無頓着派』より店に近いところに停めているわけではないことだ」
「統計的に離婚歴のある人の運転は危険」
交通はしばしば水の流れに例えられるが、隘路の交通のモデルは水ではなく米だという話がある。じょうごに大量の米粒を通す場合、いっぺんに入れるより少しずつの方が同じ時間に多くの米粒を通すことができる。「注ぎ入れる米の量を減らせば、よりスペースの余裕ができて、粒同士の干渉も減る。流れが速くなるのだ。このことは直感的にわかりやすいが、しかし路上のドライバーにとっては、必ずしも受け容れやすいものではない。」
しかし、こうした物理的なロジックだけは交通の謎は解明できない。性別、階級、運転経験などが交通に強く影響しているからだ。たとえばクラクションの使われ方は
・女性運転や初心者マークの車は後続車からクラクションを鳴らされやすい。
・メルセデスのような高級車は鳴らされにくい。
・男性より女性の方がクラクションを鳴らしやすい
・大都市に住む人の方が田舎に住む人よりも鳴らしやすい
という特徴があるという。水や米粒の動きには還元できない、極めて人間的で曖昧な要素がそこには含まれている。社会学も関係がある。現代の渋滞の原因は女性だ。アメリカで女性が労働力に占める割合は28%だったが、現在は48%である。移動距離自体は男性の方が長いが、女性は送り迎えのような短距離で頻繁な移動が多いため、女性は渋滞の原因と考えられるのだ。
交通の研究は心理学、社会学、物理学など実に異なる側面、奥行きを持つことがよくわかる本だ。
全体を見渡すことができない交通の中の人間は、これで十分という限界合理性で行動している。ネットワーク技術による交通情報の共有は、皆がそれを知ってしまえば、新たな渋滞を招く。結局、個別の経路誘導システムやインテリジェントに変動する有料課金のシステムが有効なのではないかと思った。
ところで私は車は運転しないので、次は歩行者の「徒歩」戦略の本が読みたいなあ。
・渋滞学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-480.html
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