物乞う仏陀
2002年、25歳だった著者は仕事を辞めて東南アジアへ旅に出た。カンボジア、ラオス、タイ、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、ネパール、インド。彼は普通のバックパッカーとは異なる旅行目的があった。それは各国にいる障害者の乞食の実態を知るということ。彼らを尋ねて共に暮らしてみるということ。無数の物乞う仏陀と触れあい、語り合った1年数ヶ月のドキュメンタリである。
障害者といってさまざまである。先天性の障害者もいれば後天的なものもいる。カンボジアでは地雷で四肢を吹き飛ばされた人たちが路上で物乞い生活をしていた。タイでは盲目の人間は流しのカラオケ歌手になるという職業選択がある。ミャンマーではハンセン病の乞食の村の悲惨を目にする。スリランカでは障害者が生まれるのは天罰だとして、家族までもが村人に非難される。
著者はアジアの障害者のおかれた悲惨な現実を報告しているが、決して高所から正義や理屈を振りかざそうとはしない。彼らの社会に暮らした体験を淡々と文章にする。人間的な触れあいもあるが、想像を絶する衝撃の事実もある。
インドには手足がない子供の乞食が多い。著者は心を開いたひとりの乞食から衝撃の背景を知ってしまう。
「彼はストリートチルドレンとして育ったという。貧しさから逃れようとしてこの町にでてきたのだそうだ。 初めは何人かの仲間とともに暮らしていた。ところが、十五歳の時、路上で眠っていたら突然数人の男たちにおさえられて、その場で足を切断された。彼はそのまま気を失ってしまった。 目をさますと、病院のベッドの上だった。すでに左足はなかった。数日後、マフィアがやってきてこういったという。 「俺が治療費を肩代わりしてやったんだ。利子を付けて返済してもらう。」」
さらに深入りして調査を進める著者の前にたちはだかるマフィアの影。スリリングな現地潜入レポートにドキドキな章もある。何の後ろ盾もない著者の緊張感が伝わってくる。フリーライターにしかできない価値のある仕事をしている。
昨日「21世紀の歴史――未来の人類から見た世界」という本を紹介したが、世界の最も貧しい人たち、最も弱い立場の人たちがどう生きているか、これもまた21世紀のもうひとつの現実。
面白いドキュメンタリだった。この人の他の著作も読みたくなった。
・石井光太オフィシャルサイト
http://www.kotaism.com/
・現代の若者
http://kotaism.livedoor.biz/
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