黄金旅風
歴史小説の大傑作。いや、面白い、面白い。
徳川秀忠から家光の治世、寛永年間に鎖国体制は完成し以後ペリー来航まで2世紀もの間、日本と海外の国交は厳しく制限されることになった。そのまさに日本が閉じようとしている時代に、長崎はわずかに残された海外貿易都市として栄華を誇っていた。史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門とその親友の町火消組頭の平尾才助。貿易利権を巡る内外の抗争と謀略から長崎を守ろうとした人たちの生き様を描いた長編小説である。
当時の長崎は幕府の貿易統制とキリシタン弾圧が進められる中、なお海外から渡ってくる自由な風を感じることができた。二人は体制の中に生きる日本人であると同時に、黄金旅風の中に育った型破りな発想と行動力で人々を魅了していく。
黄金旅風というタイトルだが海外を飛び回る海洋冒険小説ではない。たしかに海の冒険譚も冒頭はじめ何カ所かあるのだが、物語の大半は長崎の陸の上である。魅力的な政治小説なのだともいえる。長崎代官となった平左衛門は朱印船貿易の本質を見抜いていた。
「そう考えていけば、結局のところ朱印船の制度も、同じ図式であることに平左衛門は気づいた。一見国内商人による貿易振興策のように見えていながら、その実は家康による貿易統制策の一環でしかないものだった。父平蔵始め、朱印船貿易を許された者たちが、特権を与えられているように見えていながら、実は大名資本や、西国大名と結びつく危険性のある商人たちを排除する目的で開始されたと見るべきなのだ。」
莫大な富を得られる貿易利権を巡って、将軍家や幕臣、大名と奉行らが繰り広げる政治的な駆け引き。平左衛門は、策謀の犠牲になる長崎の人々の利益を守るべく、決死の覚悟で政敵に立ち向かう。冒険の前半に対して後半は読み応えのある政治小説といった感じ。
二人の主要人物以外にも魅力的な脇役のサイドストーリーもたっぷりある。本格歴史小説だが娯楽性も高い。『本の雑誌』2008年度の文庫ベストテン第1位に選ばれた。
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