絶頂美術館
美術館をのぞいていると近代以前の絵画や彫刻に描かれる苦悶や恍惚の表情(ベルニーニの聖テレジアの法悦など典型例)が妙にエロティックに見えることがある。それは作品が置かれている場が文化的にかしこまった場だからこそ、きわだって感じられるのかもしれない。
著者は有名な芸術作品の恍惚絶頂表現の中に隠されたメッセージを次々にみつけていく。ヴィーナスのヌードの反り返る足指、少年のやけに濡れた瞳、不自然にバストやウェストを強調する姿勢など、明らかに性的ニュアンスが中世の作品にも含まれているのだ。
美術・芸術として自由にヌードや性を表現できるようになったのは最近のこと。かつて絵画の中の人物が脱ぐには、神話や古代史のワンシーンを描いているなどという口実が必要だったそうだ。なんだか"必然性"がなければ脱がない映画女優みたいであるが、それぞれの時代に固有の表現の制約があったからこそ、それぞれの時代なりの前衛的な表現が現れたのでもあった。
この本の主な内容は絶頂表現やヌードを話の肴にした文化史の講義だ。興味本位で読みすすめ、眠くならずに、美術館巡りの予備知識の勉強ができる。扱われている作品の写真も多用されている。
「ヌードを目の前にして自身の心に巻き起こる感情を、自身で眺めてみれば、その時の自分が求めているものやあこがれを知ることができる。ヌードは、単なる裸体のデッサンでもなければ、性的なエモーションを呼び起こす手段でもない。自分自身の理想や欲求やあこがれを映し出す鏡なのである。」
どういう目でヌードを見るか、実はこんな見方もできるよ、という鑑賞の幅を広げてくれる。「怖い絵」が好きな人におすすめ。
・綺想迷画大全
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005221.html
・怖い絵
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005184.html
・刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-807.html
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