マインド・ウォーズ 操作される脳
本書が紹介していくDARPA(米国防総省国防高等研究計画局)の最先端脳科学研究は、人間の脳を意図的に操作する可能性を探っている。脳科学の可能性を示す、興味深い研究事例が次から次に出てくる。
・思考を読み取る技術
・思考だけで物体を遠隔操作する技術
・電子的、薬物的な認知能力の強化
・恐怖や怒りや眠気を感じなくする技術
・敵の脳に影響して戦闘能力を奪う化学物質
ブレイン・リーディング、ブレイン・コントロール、ブレイン=マシン・インタフェースなど脳を操作するテクノロジーの最先端がどうなっているかを、大統領倫理委員会のスタッフをつとめた科学者がレポートする本である。
実験マウスのレベルでは脳に電極をつけることで体を無線制御することが可能になっているらしい。脳画像解析によって何を考えているかを機械が判断する技術も、思い浮かべた数字を当てるくらいならば実現されつつあるという。
こうした技術が進めば脳のレントゲンのようなものになる。将来的には悪意のテロリストを飛行場のゲートで脳スキャンして発見するなどの用途が期待されているようなのだが、心の中まで丸見えになると社会のあり方、人間関係もずいぶん変わらざるを得ないだろう。
悪意を持つ人がセンサーで検出されたら即逮捕、人間はそもそも悪意が発生しないように電子的に脳を自己制御することが義務づけられる、などという暗黒SF時代がくるのだろうか。研究の現状を見る限り、可能性としてはゼロではないが、まだ時間はかかりそうで少しほっとする。
私がいま欲しいのは脳の中身をすべてWiki形式にエクスポートする機能である。"ROM吸い出し"みたいな要領でできるようにならないであろうか。そうやってみんなの頭脳が外部化されてつながっていけば知識の革命が起きると思うのである。Webどころの騒ぎじゃないと思うのだが、これも実現はまだ遠いか。
DARPAの研究の本来の目的は最強の兵士や兵器を作りだすためだ。その政府の軍事目的のために研究に従事しているのは、ほとんどが民間の大学の研究者達である。当然、倫理的な問題が発生する。著者はこの本の中で科学の最前線を紹介すると同時に政府や軍部と民間の研究期間がどういう関係を構築していくべきかを大きなテーマとして扱っている。
「民主的な社会が秘密主義の最小化を実現する方法は、国家安全保障諸機関を、より大きな、アカデミックな科学界に結びつけておくことだ。DARPAは外部への資金援助から手を引くべきだと議会やその他の場で提案されているが、同じ理由からこれには抵抗すべきである。アカデミック世界と国家安全保障に係わる体制側とのあいだがつながっていれば、両者が隔離されれている場合に比べ、社会はずっと健全なものになるのだ。」
そして何より科学者、技術者が高い倫理意識を持つことが重要になりつつあるのだともいえる。この本はそうした問題提起の書である。
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