東京奇譚集
村上春樹の短編集。文庫版。さらっと読みやすい。
ゲイとストレートの不毛な恋。南の島で鮫に足を食われて死んだ息子を弔いに旅に出た母親。階段の途中で行方不明になった夫を捜す妻。運命の女だったかもしれない女。自分の名前を忘れてしまう女。都会生活者の喪失感をテーマにちょっと不思議な話が5編。
どの作品にも冒頭から喪失のメタファーが散りばめられている。文学部の学生が研究レポートを書きやすそうな記号だらけである。5作ともおおざっぱに「喪失を抱えた登場人物達が偶然によって出会いそして別れていくという話」だと要約できる。その偶然の要素によって物語が意外な方向に流れ進んでいく。つまり面白くなっていくのだ。
喪失感というつまらないものが偶然によって引き合い、面白いものになる。一作目『偶然の旅人』の登場人物のセリフに「偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうか」というのがある。常に偶然に意味を見出すことができるならば、こんなことってあるんだ!の連続になり、人生は幸運な出会いや神様の加護でいっぱいになる。
この作品集は何かを失った人たちの話ばかりだが、偶然を経過して再生へと向かう明るさが根底にある。病院などの待合室で読むのにおすすめ。
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