封印作品の憂鬱

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・封印作品の憂鬱
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一度は発表されたが何らかの事情で再発表が自粛された「封印作品」の謎を解明するドキュメンタリ。「封印作品の謎」「封印作品の謎2」に続く第3弾。今回のタイトルは「日本テレビ版ドラえもん」「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」「みずのまこと版『涼宮ハルヒの憂鬱』」。今回は3作品しか取り上げないが、これまで以上に執拗に関係者を追いかけており、一番濃い内容になっているように感じた。これを書くのに実に2年を費やしたそうだ。

特に面白かったのはやはり「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」だ。ウルトラマンの日本以外の著作権はタイのプロダクションが保有を主張して揉めているという話は結構有名だから私も知っていた。円谷プロとタイのプロダクションの間で交わされた契約書の真偽をめぐる裁判では、日本の法廷では契約書は本物、タイの裁判所では偽物という判断がなされて、この問題を一層ややこしいものにしている。

この章で取り上げられたのはそのタイのチャイヨープロダクションが資金を出して製作した映画である。両者の関係がこじれたため、現在は日本で上映されることはありえない状況になっている。タイ人の発想で作られたため、日本人からするとかなり奇異なシーンがあるのだが、特に異様なのはウルトラマン6人+タイの猿神ハヌマーンが、一匹の怪獣を取り囲んでボコボコにしてしまう集団リンチシーンであろう。YouTubeにばっちりこのシーンがアップされている。(長期間これが消されないのも著作権の所在が不明だからであろう。)

著者はタイに乗り込み、プロダクションの代表ソンポート・センゲンチャイへの直接取材を成功させた。ソンポートは60年代に円谷プロに特撮の留学し帰国後にタイで映画製作会社を興した。円谷プロの創始者円谷英二に師事した人物がなぜ裁判で争う最悪の関係性に陥ってしまったのか、ソンポートはいま何を考えているのかが明らかにされる。そして国内でも当時の関係者を綿密に取材することで、背景にある利害関係や関係者の思惑、確執がはっきりとみえてくる。

このシリーズを私が好きなのは、封印作品という特異点から見える昭和(ハルヒの章は平成だが)という時代のゆがみを描いているからだ。この著者が封印作品をライフワークとして追い続けるのは、表現の自由のためでもなければファン感情でもないのだろう。封印を解くたびに、新たな世界が見えてくる体験(読者もそれを共有する)に魅了されているのだと思う。単なるサブカルのトリビアに終わらないから読後の満足度が高い。

封印作品4が楽しみだ。今回執筆に2年かかったと言うから次は2010年くらいかなあ。

・封印作品の謎 2
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/03/-2-1.html

・封印作品の謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/01/oiiia.html

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このページは、daiyaが2009年1月 8日 23:59に書いたブログ記事です。

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