人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く
経済合理性という視点から世の中の仕組みを鮮やかに解明した名著。「ヤバイ経済学」級のおもしろさ。いきなり「アメリカでは、オーラル・セックスをする未成年の割合が10年間で2倍に増えたのはなぜか」から始まってびっくりするが至って真面目な本である。
合理性は人類の行動のあらゆる場面を支配している。たとえば、きまぐれに思える男女の出会いも案外、合理的だ。お見合いパーティを統計的に分析すると男女のマッチングに法則が見出されるという。
「たとえば男性は太りすぎていない女性を好む。そうだとするとある夜のスピードデートに太りすぎの女性がいつもの数の二倍参加したら、その夜はデートを申し込む男性が少なくなるはずだ。ところがそうはいかない。男性陣がデートを申し込む割合はまったく変わらないのである。そのため、太りすぎの女性が二倍居ると、デートに誘われる太りすぎの女性も二倍になる。」
相手を選べるときは好みがよりうるさくなり、相手を選べないときはそれほどうるさくなくなるということ。デートの成立は市場の状況への反応で9割以上が決まっていると結論されている。とりあえずモテたいならばレベルが高くないパーティに参加すべきということか。
出会いと並んで身近なところでは喫煙者の行動なんていう話題もある。煙草の価格を大きく引き上げるとヘビーユーザーから完全にやめていく傾向があるらしい。逆に思えるわけだが、これにはこんな理由がある。
「中毒性の物質は、価格の変化に対する感応度が中毒性のない物質に比べて高くなることがあり、中毒者は、接種頻度の低い使用者、いわゆるライトユーザーよりも価格に注意を払うと考えられる。つまり、ライトユーザーは値上がりすると摂取を減らす傾向があるが、ヘビーユーザーは摂取を完全にやめる道を選ぶかもかもしれないということだ。」
合理性は全知と同じではないから、みんなが合理的に行動した結果、不都合が生じることも多い。たとえば犯罪や差別はそれを行った場合の利益が不利益を上回る場合は「合理的な犯罪者」、「合理的な人種差別者」によって引き起こされる。なぜ人種差別や経済格差はなくならないのか、その理由が人々の偏見以上に根深い合理的判断の積み重ねにこそあることを著者は指摘する。
人類が産業革命以降になって技術革新を幾何級数的な速度で実現することができた理由も人口と経済の関係で合理的な説明をしている。
「卓越したアイデアが毎年人口十億人当たり一つ生み出されると仮定すると、紀元前三十万年にはホモ・エレクタスの総人口は三十万人だったため、そうしたすばらしいアイデアは1000年ごとに生み出されていたことになる。産業革命が幕を開ける1800年には、世界には10億人の人口がいたため、イノベーションの発現率は上昇し、驚くほどすばらしいアイデアが毎年一つ生まれており、1930年には、世界を一変させるアイデアは六ヶ月ごとに生まれていたということだ。現在、地球上には六十億の人口がいるため、二ヶ月ごとにこの種のアイデアが生み出されているはずである。そうしたアイデアには、複式簿記から輪作まで、あらゆるものが含まれうる。」
人口が増えたとき、市場経済を発達させた国から産業革命は進展した。この革命は科学の天才が生み出したものではなく、人々が単純な経済のインセンティブに合理的な反応をした結果であったというわけだ。
著者は男女関係、ギャンブル、中毒、犯罪、差別、能力給とパフォーマンス、企業経営、選挙、人類100万年の進化など、あらゆる現象の背後に隠れている合理性を明解な証拠とともに発見していく。
・予想どおりに不合理
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-891.html
同じ時期に出版されたこの本と非常によく似ている。
・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004611.html
この本に影響されていると思う。
・Tim Harford
http://timharford.com/
著者のサイト
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