草祭
「夜市」「雷の季節の終わりに」「秋の牢獄」と異界物の傑作を書き続けてきた恒川光太郎の最新刊。今回もクラシックな湿り気のある妖怪譚と、モダンな平行世界のアイデアが絶妙にブレンドされた恒川ワールドが読者を引き込む。どこか懐かしい感じのする不思議な町、美奥町を舞台にした連作。
「けものはら」
中学3年の夏、雄也は行方不明になった友達の春を探して心当たりのある場所へと向かった。そこはかつて二人で一度だけ迷い込んだことのある団地の奥の用水路の先の、誰も知らない野原だった。果たして春はそこにいたのだけれど何か様子がおかしくて...。
「屋根猩猩」
夜になると瓦屋根の上を屋根猩猩が通り過ぎていく。猩猩は町の守り神で屋根の上で宴会をして、人間と取引をしに降りてくることもあるという。ある日私は上からひらりと降りてきた不思議な少年と仲良くなった。
「くさのゆめがたり」
「オロチバナはヤマタノオロチが血を流したところに咲くといわれる花だ。どこにでもあるものではないし、五感のみで生きている者は通りがかっても視えぬ。禁断の神薬、クサナギを作るのに使うという」
「天化の宿」
「<天化>のルールについて言葉で完全に説明することは困難です。<天化>は、カードと苦解き盤がセットで一つの世界を作っており、麻雀牌を一度も見たことがない人間に、役の説明をするのが困難なのと同じです」。
「朝の朧町」
トロッコ列車に乗ってひとり美奥町にやってきた加奈江には誰にも言えない暗い過去があった。彼女は知り合いの長船さんに連れられて、ぼんやりと靄がかかった町にはいっていった。
今回は過去の作品でいうならばデビュー作「夜市」や「風の古道」に近いかなと思った。「のらぬら」とか「クサナギ」など最初は名前だけ登場して、なんだかよくわからない魑魅魍魎や怪奇現象が、繰り返し登場するうちになじみ深い世界観の一部になってくるのが連作の面白さであり、読み終わるのが惜しい作品集となっている。
・秋の牢獄
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-776.html
・雷の季節の終わりに
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-489.html
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