グラウンデッド・セオリー・アプローチ―理論を生みだすまで

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・グラウンデッド・セオリー・アプローチ―理論を生みだすまで
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本来はフィールドワーク研究手法の本だがビジネスマンが読んでも学べる部分が多い。分析の方法がわからない現象をどうひも解いていくかの考え方が見えてくる。

質的研究とは現象に関しての先行研究の蓄積が少なく変数が把握されていないときに用いられる研究手法のこと。対象へのインタビューや参加観察、手記や自伝、手紙、カルテなどの資料の読み込みを通じて、背後にある概念を抽出し、概念同士の関係を解明して理論にする。内容分析、KJ法、現象学、マイクロ・エスノグラフィー、ナラティブ・アプローチなど質的研究手法と並んで有力な手法が本書のテーマ「グラウンデッド・セオリー」である。

「グラウンデッド・セオリー・アプローチは、データに基づいて(grounded)分析を進め、データから概念を抽出し、概念同士の関係づけによって研究領域に密着した理論を生成しようとする研究方法です。」

グラウンデッド・セオリー・アプローチには、データの読み込み → コーディング → 理論的飽和という3段階のプロセスがある。

1 データの読み込み
データをひとつずつじっくりと読む。文脈を重視する読みをまず試みる。そして切り分ける。文脈と切り離した切片化を行い客観的に眺めることも大切。

2 コーディング
まずオープン・コーディングで切り分けられたデータにその内容を表現する簡潔な名前(ラベル)をつける。このときラベルにはプロパティとディメンションという属性とその値の情報も付記する。たとえば「置物」というラベルに「重さ」というプロパティに23グラムというディメンション。「色」というプロパティに「赤」というディメンションがあるという具合。そして似たラベル同士をまとめてカテゴリーをつくる。ディメンション → プロパティ → ラベル → カテゴリーの順で抽象度が高くなっていく。

次のアクシャル・コーディングでは、カテゴリとサブカテゴリー(いつ、どこで、どんなふうに、なぜ、など)を関係づけて現象をあらわす。そしてセレクティブ・コーディングでは現象を幾つも集めてより大きい現象を説明する理論をつくる。パラダイムの構造抽出やカテゴリー関連図という技法が紹介されている。

3 理論的飽和
そしてすべての現象に説明がつくようになった状態が理論的飽和であり、研究の完成段階を意味する。

という流れで研究を進めていく。

この本はこうしたプロセスについての詳しい説明書である。各段階での考え方や工夫が照会されている。たとえば理論的サンプリングという方法がある。

「たとえば、経験の長いC医師の分析の後に、経験の浅い医師からデータを収集して両者を比較したり、C医師とアメリカの医師のデータを比較したり、成人のがん専門医からデータを収集して小児科医であるC医師のデータと比較するとおもしろそうだなどと考えて、データ収集をおこなうわけです。」

量的な研究ではタブーとも考えられる方法だが、事例が少なく分析の枠組みが定まっていないような分野ではこれが有効なわけだ。まずは仮説をうみだすことが理論化に向けて重要な一歩になる。

データを集めたけど次にこれどう分析しよう?というときに読む本である。ビジネスやマーケティングの分野でも有効な気がする。

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このページは、daiyaが2008年12月 9日 23:59に書いたブログ記事です。

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