「声」の秘密
「現代は誰もが個人情報に過敏になっている。ハッカーやクッキーに神経をとがらせ、データを保護する対策を講じる。そのくせ、個人情報が声から漏れだしていることには驚くほど無頓着だ。口を開いてしゃべりはじめた瞬間から、声は怖いほどに私たちの情報を漏らしている。何を話すかは関係ない。下水処理に関する法律の条文を読みあげているだけでも、体や心がどういう状態にあるか、さらに社会的地位までが暴かれる。服のサイズ、身長、体重、体格、性別、年齢、職業。こうした情報はすべて声から読み取とることが可能だ。性的嗜好が見抜ける場合も少なくない。」
イギリス人ジャーナリストが、人間の声を生物学、心理学、社会学、文化人類学、ジェンダー学などの多彩な切り口から分析していく。声には全人類が共有する普遍的な部分もあれば、所属する社会や個性で大きく違う部分がある。
世界的な比較を行うと日本人女性ほど高い声で話す女性はまずいないそうだ。日本人女性が丁寧にしゃべる時の声は450ヘルツで、イギリス人女性の最高値320ヘルツと比べて異常なまでに高い。国際的には 日本人女性 > アメリカ人女性 > スウェーデン女性 > オランダ人女性という順だそうだ。理想の男性像と理想の女性像の差がないオランダ社会の女性たちは高い声を使わない。
日本女性は身体が小さいということもあるが、それ以上に最近まで女性には女性らしさが求められてきたからではないかと分析されている。男女の身体構造の違いに起因する高低差以上に、実際に男女が使っている声の差は大きい。男も女も文化的な理由で高い声や低い声を出しているのだ。
確かに私たち日本人は、若い女性が電話に出る時、はじめて同士で自己紹介するときなどは高い声を期待してしまう。女性が低い声だと不機嫌なのかなあと勘ぐってしまうくらいだ。男性の気をひく女性の声も、やはり高い声である必要がある、だろう。
楽器と同じように大きい構造からは低い音がでる。だから、攻撃的な男性は自分の体が大きいことを相手に知らせるために低い声を選ぶ。逆に服従する人間は高い声を出して自分を小さく見せる。「高い声イコール服従、低い声イコール攻撃」の生物進化論的な図式が文化にも反映されたのではないかと考えられている。
一方、幼児の話すリズムは「人間メトロノーム」があるのかと思えるくらい共通部分が多い。赤ん坊がバブバブ言う時は一つの音の長さが約0.35秒でどんな文化でも変わらない。子守唄のリズムやメロディは世界中で似ている。赤ん坊と母親が互いに注意を向けあうサイクル(赤ん坊が乳首を吸う長さなど)は世界中どこでも3秒から6秒である。
「母と子が言葉によらない声のやりとりをするとき、そのタイミングは大人同士の会話のタイミングと非常によく似ている。こういうやりとりが「原会話」と呼ばれるのも無理はない。赤ん坊は、言葉で話すようになるはるか前からリズムで話すのを覚える。」
そして、子どもが大きくなるにつれて次第に文化の影響を受けて声のコミュニケーション様式は各文化仕様に変化していく。声から個人情報が怖いほど読み取れるというのは、先天的な部分の共通度が高く、こうした後天的な部分で差が大きいからなのだろう。
この本ではこうした生物的な声、社会的な声の基本を論じた後、大統領、首相、独裁者の声の分析や、音声合成テクノロジーの進歩で声が盗まれる話とか、映画やテレビやパワーポイントが変えた声など、声に対していろいろな角度から迫っている。
・奇跡のハイトーンボイストレーニング―プログラムCD付き 高い声を手に入れる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/post-861.html
・日本人の声
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-839.html
・声のふしぎ百科 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/12/post-322.html
・7秒のイメージ・マジックであなたの声はもっとよくなる―相手を説得する、声の印象が変わる、気持ちが伝わる
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003015.html
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