アラブの大富豪
元アラビア石油駐在員でJETROサウジアラビア事務所長などを歴任したアラビアの専門家が書いた「アラブの大富豪」の実態解明本。わかりやすく情報が整理されていて、大変面白かった。
・アラビア半島定点観測 - 半島各国の社会経済及び支配王家に関する動向分析
http://ocin-japan.blog.drecom.jp/
この本の著者のサイト。
まだ多くの日本人が率直に答えるなら「アラブの大富豪」という言葉で連想するのはピンクレディーだろう(30代以上限定)。ヒット曲「ウォンテッド」に"ある時謎の運転手 ある時アラブの大富豪、ある時ニヒルな渡り鳥"という歌詞があった。80年代にはダイアナ妃がアラブの大富豪と一緒に死んだ事件もあったが、日本人の大半にとってこの言葉は得体の知れない大金持ちという記号でしかなかった。
記号を具体的な顔として見せてくれるのがこの本だ。
中東には世界の石油と天然ガスの半分=1兆2000億バレルが眠っている。日本の年間石油消費量は約20億バレル。その価値は1バレル当たり100ドル、1ドル110円で計算すると1京3000兆円にもなる。この巨額のオイルマネーは欧米企業の買収や不動産投資に当てられているという。
「その使い方は各国それぞれに異なる。米国を牽制する手段に使おうとしているのがイランであり、サウジアラビアもそれに近い。これに対してカタルやクウェイトはそれを米国に差し出すことによって自国の安全保障を確保しようとしている。そしてドバイは、それを利用して世界経済そのものの中で羽ばたこうとしている。」
しかし、こうしたアラブ産油国のマネーの実態はまだベールに包まれている。アラブ経済の主要プレイヤーが存在するサウジやドバイ、ヨルダンの企業は、情報開示義務を持たない非公開の王族系同族会社ばかりだからだ。
サウジアラビアの創始者アブドルアジズは36人の子供を作った。その子供が254人に増え、現在は孫の代でその数は1000人を超えるそうだ。この王子達が国家と国営企業の運営者となっている。故に現代アラブの政商は為政者自身であり、王族の財布=国家の財布という実態が明かされる。
オイルマネーを理解するには、経済合理性よりも、歴史や文化の深い理解が必要のようだ。この本では前半にサウジ、ヨルダン、ドバイの歴史と王族達の親戚関係の情報整理がある。そして大富豪で権力者である華麗な王族リーダー達のプロフィールが顔写真も交えて紹介されている。アラブの大富豪を覆う秘密のベールが少し薄くなった気がする。
今後のアラブマネーの動向を考える上で参考になる入門書だと思った。
・住んでみたサウジアラビア アラビア人との愉快なふれ合い
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/07/post-109.html
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