いやな気分の整理学―論理療法のすすめ
心理セラピー手法のひとつ「論理療法」の入門書。
私たちは日常、いやな気分を活性化するイベント(Activating Event) があって結果(Consequence)があると考えがちだ。たとえば、出来事A(失敗・陰口) → 結果C(落ち込み・腹立ち)ということがあると、落ち込みの原因は失敗や陰口のせいだと思いこむ。この思考では原因となる出来事を変えないと結果が変えられない。現実生活ではそれは難しいことが多いから悩むわけだ。
論理療法のABC理論では、この関係を見直す。AとCの間にB(Belief)を挟む。
出来事A → 考え・ビリーフB → 結果としての感情C
「よくない出来事と感情の間に、その出来事に対する受け止め方・考え方というものがあり、それが感情的な反応の違いを生み出している」というとらえ方に変える。だから、自分を落ち込みやすい困った性格から、強くて穏やかな性格に変えれば、いやな気分にはまらなくてすむと考える。
論理療法の創始者エリスは「ねばならない」「であるべきだ」「であってあならない」「はずがない」という非合理な思い込み(イラショナル・ビリーフ)が、不健康な否定的感情につながると指摘している。「絶対にうまくやらねばならない」、「私の人生は完璧であるべきだ」、「こんな不公平があってはならない」という思い込みが、いやな出来事Aをいやな気分に変換してしまうことが問題だとする。
そこで、論理的な対話型セラピーによって、イラショナル・ビリーフを解消していくのが、論理療法である。たとえば「私はまったく無力です」という人には「歩いてここまで来られたのですから、歩行能力があるんですよね?」に始まって、ご飯を食べたのだから咀嚼力も消化力もあるし、目が見えているから視力もあるじゃないですかという風に反論していく。
「人間の心はとてもおもしろいもので、「自分は無力だ」と考えると、無力感が襲ってきます。「微力だとしても、力はある」と考えると、少し力が涌いてきます。そしてよけいな「微」ということばは省略して、「私には力がある!」と言い聞かせると、ふしぎなことに元気が出てきます。」
論理療法には、フロイドやユングの心理学のような無意識・潜在意識の話が出てこない。思い込みの内容を意識して言葉として表出させて、論理的な説得を繰り返すことで、感情の自己コントロールが可能な性格に変えようとする。ポジティブ・シンキングに似ているが、こちらはすべての負の感情を除去しようとするものではない。
以下のような否定的な感情と健康的な感情のリストが掲載されていた。
このうち否定的な感情を取り除いた上で、ポジティブシンキングを取り入れる下地作りをするのがこの心理療法らしい。実際の対話例(ひとりでもできる)がいっぱい掲載されているが、どれも論理的な道筋をたどっていくと、ポジティブに考えることが自分にとって最善の道であるということが、ロジックとして明確になる。
本当にうつの人をこの療法で治せるかはわからないが、ちょっといやな気分になった自分を、どう自身で励ますべきか、わかりやすい考え方を教えてもらった気がする。
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