治療をためらうあなたは 案外正しい EBMに学ぶ医者にかかる決断、かからない決断

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統計的に分析すると、病気の治療や検診は受けなくても結果にたいした差はないことが多いというショッキングな内容。医学教育の専門家がEvidence-Based Medicine(根拠に基づく医療)という新しい医療の考え方で書いている。

まず数字の見方を教えられる。脳卒中の高血圧を抑える薬の効果は次のように表記できる。実は全部同じ事実を述べているわけだが印象がずいぶん変わる。私たちは医者の説明によって医療や薬の効果を過大評価(あるいは過小評価)しているかもしれない可能性に気づかされる。

・10%の脳卒中を6%に減らす
・40%脳卒中を減らす(相対危険減少でみた場合)
・4%脳卒中を減らす(絶対危険減少でみた場合)
・25人治療すると1人脳卒中を予防できる(治療必要数でみた場合)
・薬を飲んでも6%が脳卒中になる
・薬を飲まなくても90%は脳卒中にならない

EBMは徹底的に事実と数字から医療の効果を検証する。取り上げられた病気は、高血圧、高コレステロール血症、風邪、腰痛、糖尿病、風邪、インフルエンザ、花粉症、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、胃潰瘍、虫垂炎、ガン検診、うつ病。どの病気でも、治療や検診の効果を疑問視せざるをえない、もうひとつの合理的な見方が提示される。

たとえば乳ガン検診は1039人が検診を受けると1人ガン死亡を減らすという結果が出ている。この数字はかなり小さい。検診群と非検診群での乳ガン死亡率は、50歳未満なら共に0.3%、50歳以上でも共に0.5%と、検診・非検診で"ほぼ同じ"である。

集団検診は少ない数字とはいえ母数に比例して確実に死亡数を減らせるので、実施側はやる意義がある事業だが、個人にとっては、ガン検診はほとんど効果がないのだともいえてしまう(逆にレントゲン検査がガンを増やしているという研究さえある)。受けなくても、よほど運が悪くない限り、9割9分5厘まで、死ぬことはないのだから。非検診グループで大腸ガンで死亡しない率=99.41%という数字もある。

「集団検診の目的は、正確に言うと個人個人のガン予防のためでなく、集団としてのガン死亡率を減らすことなのです。」と著者は結論する。

早期発見にデメリットもあるという。考えさせられたのは、著者が持ち出した老人のガンの話だ。

65歳で検診を受けて胃を切除したグループは「検診のおかげで10年経った今も元気だ」と考えている。一方、検診を受けずガンであることを知らず過ごしたグループも「私はこの10年元気だった」と考えている。数字的には早期ガン患者が5年後にも早期のままである確率は36%と意外に高いので、後者グループの生存者は結構多いのだ。

苦しい治療と再発の危険に怯えながら再検査を繰り返す前者のグループと比べて、完全な胃のある状態で5年を過ごした後者のグループの方が幸せな人生だったのではないかと、著者は読者に問いかける。治療や検診にかかる時間や費用のコストも両者の生活の質に影響するはずである。

統計的には病気を「放っておく」のは案外、賢い個人の選択肢である、ということがいえる。健康に異常に気をつかいストレスを溜め込んでしまう人と比べて、検診や治療を受けない人というのは、それほど愚かな決定をしているわけではないのだ。

でも、私は検診や治療を受け続けるだろうなあとも思った。人間は合理的ではないからだ。確かに統計的には深刻な病気になる人は少数なのだが、それが私ではないとは誰にも言えない。1000人に1人救われる人になる可能性があるのなら、後悔しないために治療や検診を受けるという選択肢も、それほど愚かな選択ではないだろう。

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このページは、daiyaが2008年11月 4日 23:59に書いたブログ記事です。

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