アルケミスト 夢を旅した少年
スペインの平原に住む羊飼いの少年が、夢のお告げを信じてエジプトのピラミッドに旅立つ。お告げはピラミッドの近くに宝物が埋まっているから掘りに行け、というのだ。少年は羊を売り払って海を渡り、遠い遠いエジプトの地を目指す。
これは人生の教訓がたくさん散りばめられた寓話の玉手箱みたいな作品だ。羊飼いの旅というメインストーリーは「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」とか「前兆に従え」というDream Comes Trueなポジティブ指向のメッセージだ。
これに加えてサブストーリーや脇役が持ち込む寓話が多数ある。その数多ある中の挿話の一つに過ぎないのだけれど、賢者から幸福の秘密を盗んでくることになった若者の話が、私には一番印象的だった。
それを要約してみると...
若者は長旅の末、賢者の宮殿にたどりついた。賢者は若者に、今私は忙しくて幸福の秘密を話している時間がないので、美しい宮殿内部を2時間ほど見てきなさいと命じた。そして二滴の油が入ったティースプーンを渡して「歩き回る間、このスプーンの油をこぼさないようにしなさい」と言った。
だから若者は2時間ほどスプーンに目を釘付けにして宮殿の中を歩いた。そして賢者の元に戻った。賢者は宮殿の素晴らしい織物や庭園や書物を見たかと若者に尋ねた。若者は油をこぼさぬことばかり考えていたから何も見ていなかったと答えた。
賢者は、では戻ってもう一度見てくるがいいと言った。若者は今度はしっかりと素晴らしい美術品や庭園を鑑賞して感動した。そして賢者の元に戻り報告した。賢者は言った。「しかし、わしがおまえにあずけた油はどこにあるのかね?」。スプーンの油はどこかに消えてなくなっていた。
『幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ』と賢者は教えた。
という話。
いやあ、この部分だけでもかなり深いと思った。
・目先の利益追求ばかり考えていると本質を見失う。(企業経営も同じ)
・ワークライフバランスを大切に
・自分の初心や原点を忘れてはならない
・旅は目的地だけでなく途中の車窓の景色も楽しめ
・なぜスプーンの油は二滴なんだろうか?
解釈や展開はいろいろできる。読者が多義的に教訓を引き出せるのが寓話の良さ。
羊飼いの少年は旅の途中で幾多の苦難に見舞われる。出会いと別れ。成功と失敗。そのたびに印象的なエピソードから人生の教訓を学んでいく。そしてとうとう、宝の埋まるピラミッドにたどりつく。彼がそこで見つけた真実の宝とは?。
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