表現力のレッスン

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・表現力のレッスン
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演出家 鴻上尚史が早稲田大学などで教えてきた表現力向上のレッスンを書籍化したもの。20のワークショップを紙上で体験できる。舞台出身らしく声と身体を使った表現力に徹底的にこだわる。

レッスンでは身体接触がやたらと多い。後ろのパートナーの支えを信じて倒れ込む「信頼のエチュード」に始まって、パートナーを彫刻に見立てポーズを作る、とか、目隠ししたままパートナーの姿勢を手で触って真似する、など、自分や他人の身体で遊ぶレッスンが基本である。こうした日常にない身体体験を通して、隠れていた自分の身体の表現力や感情を発見するのがねらい。

これを男女混ざった大学の授業でやっていると学生達はさぞドキドキ・ワクワクだろうなと、想像してしまった。実際、授業では過剰に意識する男女がいるので、鴻上が「異性を触りながら飢えてるぜ光線を出さないように気をつけましょう」などと注意している様子が可笑しい。

日本人の身体接触下手について鴻上は「中学生のフォークダンスの無残さ」をひきあいにこう言う。「日本人は、セックスを前提としない男女は皮膚接触しない」という文化を持ちながら、無条件にフォークダンスを輸入してしまったのです。驚愕の自殺行為です(笑)。体育の時間や運動会の時のフォークダンスが、どうしてあんなに恥ずかしく、居心地が悪かったのか、今なら分かります。」

でも、このちょっとドキドキの高揚感や楽しさがあるから効果がありそうなのである。ここに紹介されているレッスンのほとんどは真面目な顔で一生懸命やるよりも、楽しみながら生き生きとした表情で遊ぶ方が効果がありそうなのだ。生き生きとした表情や感情を見つけることが趣旨なのだから。

教育関係者から「楽しいだけでいいんですか?」と質問されて鴻上は少しムッとしたという。

「ムッとしたのは、「楽しければいいのか、教育目標はないのか?」という考え方が、日本人をどんどん表現下手にしたからです。<中略>表現とは、まず、本人が楽しむことが大前提です。楽しければ、放っておいても、本人はそのことを続けるのです。音楽が楽しければ、作文を書くのが楽しければ、放っておいても、音楽や作文を続けるのです。続けることで、どんどんと表現は上達するのです。」

鴻上のまとめたレッスンはどれも実際に試してみたくなる。ムチャクチャ語で意思疎通をはかるとかその横で勝手に通訳をするとか、ひと言も話さず目だけ手だけ足だけ胸だけで会話するとか、遊んでいるうちに表現法が自然に開発されていきそうだ。この授業を受けたかったなあ。

・真実の言葉はいつも短い
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-787.html

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このページは、daiyaが2008年10月22日 23:59に書いたブログ記事です。

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