蛇にピアス
「
「スプリット・タンって知ってる?」
「何?それ。分かれた舌って事?」
「そうそう。蛇とトカゲみたいな舌。人間も、ああいう舌になれるんだよ」
男はおもむろにくわえていたタバコを手に取り、べろっと舌を出した。彼の舌は本当に蛇の舌のように先が二つに割れていた。私がその舌に見とれていると、彼は右の舌だけ器用に持ち上げて、二股の舌の間にタバコをはさんだ。
」
9月20日から蜷川幸雄監督による映画(R15指定)が公開されている。原作は第130回芥川賞(綿矢りさと共に話題になった)、すばる文学賞ダブル受賞作品。芥川賞というと淡々とした短編が多い印象があるのだが、この作品は最初から最後まで官能と暴力の刺激に満ちている。推理ミステリ要素もあったりで難しいことを考えずに楽しめる作品。
スプリットタンを施し、腕には刺青を入れ、髪を赤く染めた恋人のアマ。表情がわからないくらい顔中にピアスをした専門ショップ経営者のシバ、そして、身体改造にあこがれる主人公の女性ルイ。アマの友人シバの手でルイの身体改造が進むのにあわせて、3人の微妙な関係が緊張感を孕んでいく。
身体改造者の生態や心理の描写がリアル。彼らは喪失感を埋め合わせるために、身体改造によって、自己の存在に意味を与えようとする。傷や痛みで生を確認しようとする。世間から排除される印を自らに刻むことで、排除される者という自己のアイデンティティを確保しようとしているように思える。
身体改造の情報はインターネットにもいっぱいある。この種の情報流通はまさにネット向きだったのだろう。身体改造者が書いたブログやコミュニティも多く見つかる。興味を持つ人や、やっている人の数は増えているのかもしれない。
刺青や割礼、纏足や首輪など、人類の長い歴史の中では身体改造はかなり普遍的なものだ。それを施していないと、一人前の成員になれない社会も多くあった。身体改造をやっていない人のほうがヘンだった時代の方が長いくらいだろう。ヘンと普通は逆転したが、排除の現場にギリギリのドラマが生まれる構造も普遍的といえそう。
・BME
http://www.bmezine.com/
Wikipedia「身体改造」から「 - 世界最大級の身体改造サイト。」として紹介されているサイト。あらゆる身体改造について、情報と写真が投稿されている。
映画は予告編だけ見たが原作に忠実につくられていそうでとても期待である。
・映画 蛇にピアス 公式サイト
http://hebi.gyao.jp/
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