ロード
現代アメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシーが描いたSF文学。ニューヨークタイムズのベストセラーリストに30週以上ランクインし170万部のセールスを記録したピュリッツアー賞受賞作品。
世界は終わろうとしている。地上のあらゆるものが焼き尽くされ灰をかぶっている。空は分厚い雲に覆われ、雪を降らす。気温は下がり続けている。植物は枯れ果てた。人類の多くは何年も前に死に絶えたが、生き残ったものたちは飢え、残り少ない食糧を争って、殺し合っている。
「少年はなかなか眠らなかった。しばらくして身体の向きを変え父親を見た。かすかな明かりに照らされた父親は雨で顔に黒い筋がつきまるで古い世界の悲劇役者のようだった。一つ訊いていい?と少年はいった。
ああ。いいよ。
ぼくたち死ぬの?
いつかはな。今はまだだ。
やっぱり南へ行くんだよね。
そうだ。」
父と幼い息子はこの絶望的な状況に出口を求めて、遠い南の海を目指す。荷物を積んだショッピングカートを押しながら、二人は破滅していく世界を歩き続ける。略奪者たちの影に怯えながら、食糧確保と安全な寝場所の確保が課題の日々。父は息子を自分の命に代えても守り通そうと決意する。
ここは極限的な性悪説の世界だ。万人が原初的な闘争状態にある。他者を見たら、奪われる、殺されると思わないと、生きてはいけない。温情は禁物である。他人に何かを与えればそれだけ自分の生きるリソースが目に見えて減るのだ。誰も人を信じることが出来ない。
世界の破滅以降に生まれた息子にとって、父だけが唯一の信じられる人間だ。父は苦難の旅のなかで、かつて存在した世界の様子を教え、息子の心に希望の火を点そうと努力する。
パニックSFの緊張感と文学的な深さを兼ね備えた傑作である。映画化が決定している。映画史に残るような、究極のロードムービーになるかもしれない。
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