未来歳時記・バイオの黙示録
異世界漫画の天才 諸星大二郎による幻想SF連作の単行本化。神話や伝説をベースにする作品が多い人だが、今回はなんと未来のバイオテクノロジーがテーマだ。物語世界では人類は遺伝子操作を濫用した結果、生物の遺伝子が混成状態になってしまった。知性を持った動物や、動物化した人間たちがひきおこす恐怖とシュールな笑い。
諸星大二郎らしいのは、こんなテーマでも、まったく説教臭さがないこと。テクノロジーの暴走に警鐘を鳴らすとか、倫理的な問題提起をする気配はゼロで、飽くまで怪物を登場させる格好のネタのひとつと考えているようだ。
アーサー・C・クラークは「高度に発達した技術は魔法と見分けがつかない」と言ったが、最先端の技術は、いまや人類の願いを叶えてくれる魔法であると同時に、破滅させる呪いにもなりうる。ちょうど今日、スイスとフランスの国境付近で世界最大の素粒子加速実験装置「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」が稼働を開始した。この最先端科学の実験は小さなブラックホールを生み出す可能性が5000万分の1くらいあると噂されている。それが本当に発生すると地球は呑み込まれて人類も当然ジ・エンドである。
もちろん科学者達はそんなことにはならないと否定している。だが、このニュースを知って、インドの少女が本当に世界が終わると思い込んで自殺してしまった。科学は伝統的な迷信や呪術を消滅させたが、同時にそれ自体が新しい呪いを生み出しているといえるのじゃないだろうか。
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