運動神経の科学 誰でも足は速くなる
子供の頃、この"運動神経"という言葉が苦手だった。私は鈍かったから。やせ形で筋肉がつきにくい体質だから、自分にはどうしようもないよなあと思っていた。運動神経とは鍛えられた筋肉だと理解していたわけだ。この本を読んで、もしかするとそうじゃないのかも?と今更気がつかされた。
「これまでトレーニングといえば、筋力やスタミナ向上を目指した、単調でつらいものだった。しかし、そんなことをしなくても、足は速くなったのだ。変わったのは筋力だけではなく、一言でいえば、身体の使い方である。ここにあらゆるスポーツの上達に通じる、秘訣がある。」
著者の理論は「身のこなし」「体の操作性」を向上させて運動不器用を運動器用に変身させるというものだ。たとえば腹筋運動が一回もできない人は、多くの場合、「腹筋がどこにあってどのように力を入れればよいのかわからない、という理由」によるのだそうだ。動きの「観念」(イメージ)を脳に明確にしてやるとできるようになるという。
「運動は脳の指令をうけて成り立つものである。しかし逆に、その動きに必要な新しい運動神経回路をイメージや動きのトレーニングによって形成することで、いわば脳の新しい機能を育てるという働きももっている。」
著者はそうした独自の理論を応用して、楕円軌道式自転車のような「足が速くなる」トレーニングマシンを開発した。有名選手達がこれを使って次々に記録の向上を達成している。この本は著者の理論と長年の実践を一般向けにまとめたものである。
脳と運動能力の関係についてスポーツ科学の領域で解明されてきた事実が面白い。運動部のように根性で無闇にきつい練習を積み上げるよりも、合理的な科学トレーニングを少しする方が、優れたスポーツ選手を育てることができるということのようだ。
学生時代の私は運動部の不合理な雰囲気が嫌いで文化系になっていたのだが、著者の研究が浸透すれば「科学的な体育会系」ができるのかもしれない。後半で近年の青少年の体力低下についても触れられていた。運動神経は子供の頃(2,3歳から)に発達させておくのがよいそうだ。
「つまり、近年の青少年の体力・運動能力の発達を総合的に見た場合、その平均値は中学三年生までにほとんどピークに達し、それ以後の発達はわずかであるか、ほとんど見られないということになる。十四歳以後、低下する項目さえある。」
私は運動神経が苦手なまま大人になり、どうでもよくなってしまったが(健康ではいたいですが)、子供には上手になって欲しいものである。著者の理論をベースにした体育玩具とか作って欲しいなあと思う。
・運動神経の科学
http://www.undoushinkei.jp/
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