刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ

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・刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ
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西洋の「ヌード」文化が日本に輸入されて受容されていく歴史の研究。

まずヌードとネイキッドの違いの定義から始まる。

「ヌードを西洋美術史のひとつの大きな柱として、初めてその意義を歴史的・体系的に考察したのはケネス・クラークであった。彼は1956年に出版した古典的な名著『ザ・ヌード』で、服を脱いだ裸の状態がネイキッド(naked)であるのに対し、ヌード(nude)というのは、人体を理想化して芸術に昇華させたものであると定義した。」

現代の私たちがメディアや美術館で見る裸体のほとんどすべてがヌードである。美しくてエロティックなものばかりだ。ところが江戸時代以前の日本には裸にはネイキッドしか存在していなかったという。

「日常的に女性の裸体を目にする機会の多かった日本の社会では、女性裸体に対してことさらにエロティシズムを感じることがなかった。湯上がり美人や入浴美人は裸体を見せるものというよりは、あくまで美人画の延長線上にあった。」

裸が美しい、裸が恥ずかしいという感性は近代に西洋から輸入されてきたものであるらしい。アダムとイブが禁断の果実をかじる前には裸を恥ずかしいと思わなかったのに似ている。

「伊藤俊治氏は、「裸体は、本質的にそれ自体自然なものであり、イデオロギーも文化も付着していない。ヌードが意味をなすのは、ある意味でそれを見る者が裸体を意識し、その意識に対して社会的な解釈をほどこす時である。裸体に文明が入り混じってくる瞬間である」と述べる。明治以前の裸体は、裸体であると意識されず、文明が混じっていなかったのである。」

明治28年、画家 黒田清輝は第4回内国勧業博覧会に若い女性が全裸で鏡の前に立つヌード作品≪朝妝(ちょうしょう)≫を出品した。黒田のねらい通り、この作品は大いに物議を醸してヌード開国のきっかけとなった。日本のヌード文化の歴史がここに始まる。

「若桑みどり氏は≪朝妝≫は「裸体統御の西洋的なシステム(検閲と許可)も一緒に輸入した」とし、「検閲をくりかえしながら、権力は崇高なヌードと猥褻なヌードを上下に二分し、民衆の性のメンタリティをコントロールすることに成功していった」と述べる。」
この本は日本における幕末までのヌード前史と明治以降の受容の歴史を丁寧に描き出している。日本にも春画や刺青画や生人形という独自の裸体芸術があったことがビジュアルで紹介されている。西洋ヌードと比べて理想化されていない生身の人間を感じさせる淫靡さが強烈だ。

権力と性の関係は必ずしも対立的なものではなかった。規制は新しい表現を生み出す。生み出された表現がその時代に生きる人々の美の基準をずらしていく。制度と規制があるからこそ、そこからはずれた「ドキッっ」とするものが常に存在するのだ。

「西洋のヌード観と羞恥心に植えつけれらて、自然な裸体を性的身体に変容させてしまった近代の日本は、そのイメージを増殖させることによって再びその性を無化しようとしているように見える。」

街頭広告にもヌード写真が使われるくらい性のイメージがありふれたものになった現代では、もはやヌードというだけでは性を感じなくなっている。むしろ、昔の日本のように、生活の中の、自然な裸体(ネイキッド)の方が人をどきっとさせるものになってきた気がする。(Winny流出事件の個人撮影の写真とか)。人類のエロ感覚は、ネイキッドとヌードの間の反復運動の歴史なのかもしれない。


・愛の空間
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・性の用語集
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・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
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このページは、daiyaが2008年7月31日 23:59に書いたブログ記事です。

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