世界の測量 ガウスとフンボルトの物語
「世界の測量」は小説である。ドイツ国内で130週間に渡ってベストセラー(35週は1位)に入り120万部を売り上げ、世界45カ国語に翻訳された。2006年度に「ハリーポッター」や「ダ・ヴィンチ・コード」をおさえて世界で2番目に売れた驚異的セールスの本である。
近代地理学の祖 アレキサンダー・フォン・フンボルト(1769-1859)と、数学の王 カール・フリードリヒ・ガウス(1777-1855)という、二人のドイツが生んだ大天才の、数奇な人生を描いている。
タイトルの「測量」は世界の大きさや自然の仕組みを発見しようとする人間の行為を象徴している。現代の先端科学は未知の世界を測るには巨大な粒子加速器や宇宙船を必要とするようになってしまった。天才といえど発見は一人ではできなくなった。フンボルトとガウスが生きた18世紀中頃から19世紀中頃は、人間が世界を自らの身体と頭脳で測ることができた最後の時代だったのである。
二人の天才の行動パターンは対照的だった。探検家として未踏の世界へ決死の旅に出て測量を続けた行動派のフンボルト。実測データで世界の姿を示そうと冒険旅行に半生を費やした。ガウスもドイツ国内で測量の仕事をしていたが本当の関心は数学や天文学にあった。言葉を話すより前に計算ができたという神童伝説で知られるガウスは計算や思考を重要視していた。引きこもり型であった。
世界を測るアプローチと活動領域は異なる二人だったが厳格にして頑固に真理を探究する姿勢はそっくりだ。そして共にその性格があったが故に、現代自然科学の礎となる大発見の数々を成し遂げた。二人の偉業は世界史における「ドイツ的なもの」の最高到達点だった。(それがこの本がドイツで爆発的に売れた理由ではないだろうか。ドイツでの大ブームは国の歴史的英雄を取り上げたNHK大河ドラマみたいなもの、かもしれない。)
フンボルトの動的な章と静的なガウスの章が交互に配置されている。どちらも天才であるが故に許された自分勝手の奇人変人であり、物語を彩るエピソードにはことかかない。テンポが良くて読みやすい「哲学的冒険小説」。
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