類推の山
「はるかに高く遠く、光の過剰ゆえに不可視のまま、世界の中心にそびえる時空の原点―類推の山。その「至高点」をめざす真の精神の旅を、寓意と象徴、神秘と不思議、美しい挿話をちりばめながら描き出したシュルレアリスム小説の傑作。」
1944年に36歳で夭折したシュールレアリスム作家ルネ・ドーマルの代表作。20世紀の奇書。私たちは道を極めようとするときそのプロセスを登山にたとえる。究極の理想、神の領域に向かって登る。しかし、その至高点は、生身の人間にとって目指すことはできるが現実には到達しえない象徴的存在「類推の山」である。
主人公は雑誌「化石評論」に天と地を結ぶ山についてエッセイを書いた。旧約聖書のシナイ山、エジプトのピラミッド、ギリシアのオリュンポス、バベルの塔、中国の神仙の山々など世界の神話伝承には人間が神性に高まりうる通路としての「類推の山」が存在しているという内容だ。
この記事に読者から一通の手紙がやってきて物語が始まる。
「前略、あなたの<類推の山>についての記事を読ませていただきました。私はいままで、自分こそあの山の実在を確信するただひとりの人間だと信じていたのです。今日、それが私たち二人になったわけで、明日は十人、いやもっとふえるかもしれない─── そうなれば探検を試みることができるでしょう。私たちはなるべく早く接触をもたなければなりません。よろしければすぐにでも下記の番号のいずれかにお電話ください。お待ちしています。」
こうして、探検隊が結成され、一行はエベレストよりも高い天にも届く高峰を探す。存在するはずのない場所への長い旅始まる。それは「別の事物、彼岸の世界、異なる種類の認識」を求めたドーマルの魂の自伝でもあった。
物語はドーマルが執筆途中で肺結核で死んだため、類推の山に至る旅は第5章で未完に終わっている。だが、ドーマルの妻と仲間の作家がその事実を明かす「後記」と「覚書」を追加したことで作品としての完成度は高まった。物語の中断がドーマル自身が道半ばにして倒れたことと二重写しに見えて、作家の当初の意図以上にシュールな作品となったのである。象徴の山の頂は人間には登れないものなのだ。
神話的な物語なので今読んでも古さを感じない。全編が美しいメタファーに満ちている。
・「百頭女」「慈善週間または七大元素」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-771.html
こちらも20世紀シュルレアリスムの奇書。
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