フリーズする脳―思考が止まる、言葉に詰まる
脳神経外科医が現代人の脳に起きている異変を語る。
「それが良いことなのか悪いことなのかはともかくとして、私たちはインターネットをあまりにも便利に使うことによって、日常生活の中で、知識を得るまでのプロセスに多様性や複雑さをなくし、思い出す手がかりのない記憶をどんどん増やしてしまっているようなところがないでしょうか。そのために「知っているけど思い出せない」ということが増えた。」という著者の指摘に考えさせられる。
パソコン任せ、インターネット任せの生活は、私たちをさまざまな面倒から解放した。検索すれば容易に情報が見つかる。気になるページはブックマークしておけばよい。わざわざ記憶しなくなった。人にURLを送りつければ自ら説明する手間が省ける。だから内容を深く理解しておく必要もない。脳の負担が減って楽になる=ITを使いこなしている=良いことと考えがちだ。
パソコンとインターネットを人類共通の外部記憶装置として共有する情報管理スタイルは、この10年で世界中いたるところで急速に浸透している。楽に膨大な量の情報を扱うことができるようになったわけだが、一方で人間が物を覚えたり考えたりする時間は減っている。現代人は中途半端にしか情報を受け取っていないから「知っている気がするけど思い出せない」ような体験が増えていると著者は指摘する。脳がパソコンにカスタマイズされてしまっているのだ。
フリーズが多発する脳はパソコンやネットだけが原因とは限らない。会社生活における環境の変化もそうしたボケを招くのだという。
「若い頃には嫌なことをやらされているわけですが、偉くなってくると「これはもう自分でしなくてもいい」と選べる場面が増えてきます。それで面倒な作業を省いていくと仕事や生活がどんどんシンプルになっていく。そうした方が効率よく才能を発揮できそうな気がしますが、そうとは限りません。「忙しかったのにできていた」のではなく、本当は「雑多なことをしていたからできていた」のかもしれないのです。」
雑多なことを自動化簡単化すると生活の中の「新しく組み立てていく部分」がなくなる。脳の回転数が下がってしまう。著者曰く脳の回転数を上げるには、ある程度「社会の歯車である環境」に戻りなさい、意志を持った歯車でいなさいとアドバイスしている。
私はITをフル活用して仕事をしている。またそうしたワークスタイルを授業や研修で積極的に人に勧めてきた。だから、この本のフリーズする脳の問題は日々自分の問題として痛感している。1日中パソコンの画面とにらめっこしていると創造性が減退していくのが自分でも実によくわかるのだ。
パソコンをフル活用して煩雑な作業を自動化すること。インターネットを外部記憶として使うこと。こうしたやり方は決して間違っているわけではないと思う。本来は脳が楽をする分だけ「新しく組み立てていく部分」を増やすべきなのだ。だが人間はつい楽な道を選んでしまう。
数年来フリーズ脳対策として個人的に心がけていることとして、
1 企画の発想はパソコンを使わず紙の上に書いていく
2 仕事中に社内を歩き回るか外を散歩して考えをまとめる
3 情報収集ではネットサーフィンは最小限にして本を読む
4 誰かをランチに誘ってややこしい問題を人に簡単に説明する
5 真面目な会議でもなるべく人を笑わせるよう努力する
がある。この本を読む限りではだいたい方向性は間違ってなかったようだ。
私は「ゲーム脳」はまったく信じないのだけれども、パソコンやネットの過度な利用で脳が怠惰になるという、この本の説には全面的に同意である。かつては人と差をつけるためにITを使ったが、万人が使いすぎな時代には、敢えて使わないことで生産性を高めることにつながるのかもしれない。
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