疑似科学入門
疑似科学情報の氾濫する状況に科学評論家の池内了が警鐘を鳴らす一般向けの啓蒙書。
わかりやすい説明で定評のある著者だけあって、疑似科学が流行る構造を平易に語っている。たとえば「幸運グッズ」はなぜ売れるのか。
「それが売れるのには理由がある。幸運グッズを買いたい心境になるのは落ち込んだとき、つまり(大げさに言えば)人生の逆境のときである。そこで、藁にも縋り付きたい思いで幸運を呼ぶというグッズに手を出してしまう。ところが、人生は山あり谷ありだから、逆境の時期はそのうち去って好調の時期が必ず訪れる。幸運グッズを買おうが買うまいが、いずれ時期が来れば不調を脱することができるのである。しかし、本人は幸運グッズを買ったおかげだと思い込んでしまう。」
疑似科学の特徴は反証ができないこと。哲学者のバートランド・ラッセルが出したティーポットの例え話を使って疑似科学のやり口をこう説明する。
「ある人が地球と火星の間に楕円軌道を描いて公転しているティーポットが存在している、という説を唱えたとしよう。ところが、そのティーポットは余りに小さいので最も強力な望遠鏡を使っても見ることができず、重力が小さいので地球や火星に及ぼす影響も検出することができない。そのため誰も反証することができない。」
詐欺師は専門家の意見や統計データを我田引水してティーポットの存在を信じ込ませる。相関があるからといって因果関係があるとは限らないのにあるように思わせる。地震予知、電磁波、健康食品、ガン特効薬、頭の良くなる式の脳科学など、専門家の世界でも意見が分かれる科学の最先端領域(未成熟科学)に、そうした疑似科学が多く発生する。
人間は認知に際して、たくさんのインプットを効率よく取り込むために、様々な近道をつかう。生物としては何かを信じないと生きていけないわけだから、できるだけ何かを信じるように人間の頭はできているわけだ。
たとえばそうした近道は、この本には
・認知的節約の原理
・認知的保守性の原理
・主観的確証の原理
などが紹介されているが、詐欺師はこうした信じやすい人間心理を巧みに利用する。
そもそも「人間には心のゆらぎがあり、非合理ではあってもそれを選びたい心理になってしまう。」だと著者は諦め気味に言う。そして「まだ理論や手法が確立せずデータの集積も不十分であるような科学」をどう見守るかが重要として、未成熟科学の見守り方を論じている。
疑似科学を擁護するつもりはないが、私が思うに人間は根本的に不合理が好きなのだ、と思う。非合理にはロマンがあるからだ。科学を進歩させてきたのもそのロマンを追求する情熱だったのだろうと思う。
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