浄土
文庫化されたタイミングで読書。天才町田康の短編集、読者の心をつかみ、ゆさぶり、首しめるような全7編。
とりわけ「どぶさらえ」が最高。
「先ほどから、「ビバ!カッパ!」という文言が気に入って、家の中をぐるぐる歩きまわりながら「ビバ!カッパ!」「ビバ!カッパ!」と叫んでいる。 なぜ気に入ったかというと、単純に「ビバ!カッパ!」という音の響きが連なりが気に入ったからだけれども、ただそれだけならこんなに何度も言わせない。せいぜい水道水をカップに入れ、ぐいと飲み干したる後、「ビバ!カッパ!」と一声叫んでそれで終わりだろう、それをばこうして何度も何度も言うというのは、そのビバ、カッパ。という文章に明確なビジョンが伴っているからである。」という出だしで始まる怨念の小説。
この感覚、実によくわかるのだ。この現象は私にもときどき起こるから。私の場合「寒山拾得」「六根清浄」「十返舎一九」など小さな「っ」が入って且つ古くさい感じの言葉が一度心に浮かんでくると、リフレインが止まらなくなってしまうことがある。この言葉は意味なんだっけと思いながら何百回も唱えることになる。こういうの、結構一般的な現象なのだろうか?。
この作品でも町田康が捕まっているのは「っ」が入っているフレーズなのだった。尊敬する作家と共通点が見つかって単純にうれしくなってしまう。だが作家が凄いのはそうした困った現象をも表現技法に取り入れることだ。「どぶさらい」では、頭の中をぐるぐるまわる言葉が、渦を巻いて大きくなって、主人公を駆り立て、やがて外の世界に飛び出していく。いつもの町田節が冒頭から炸裂している。
それから「どぶさらい」と並んで「あぱぱ踊り」も傑作だと思う。社会に生きていると、こいつは正座させて小一時間問い詰めたい奴すなわちトンデモ勘違い野郎がいるものだが、そういう「俺様」をムキになって徹底的に追い詰めていく。その追い詰めプロセスを楽しむ独特の娯楽作品である。かなり笑えた。
最初から最後までいつもの如く人を喰った作風。解説で松岡正剛氏が指摘しているように、そもそも「浄土」というタイトルの作品が収録されていないし、その説明もない。たぶん、町田康は確信犯的に、説明しない効果を狙ってニヤニヤしているのだろうなあと思うと悔しいけれども、本は面白かった。
・悪人
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-603.html
・告白
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/10/post-474.html
・フォトグラフール
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-745.html
・土間の四十八滝
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-733.html
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