対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで
ノーベル賞物理学者レオン・レーダーマンが「対称性」を切り口に、ビッグバン理論や相対性理論から量子力学や最新宇宙論までを語る科学読み物。
宇宙は対称性で満ちている。
「物理系とは原子のような単一の粒子、あるいは分子、岩石、人体、惑星、全宇宙のような粒子の複雑な集まりであって、物理学のいろいろな法則にしたがって運動したり行動したりするものである。物理学というプリズムを通して見れば、本質的にすべてのものは物理系となる。もしある物理系にある変化を起こさせ、変化の後でもその物理系が変化の前とまったく同じであれば、その物理系は対称性をもつという。われわれが物理系に起こさせるそのような変化を対称操作または対称変換という。ある変換を加えても物理系が同じであれば、系はその変換に対して不変であるという。」
たとえば完全な球体があるとする。球体はその中心を通るどんな軸に沿って回転させても外観は変わらない。このとき球体は回転という変換に対して対称性を持っているという。そして、ちょっと動かしてもたくさん動かしても対称性は変わらないので連続対称性を持つともいう。(これに対して三角形や四角形は正確に120度や90度回転させたときだけ対称性を持つので離散的対称性をもつ。)。
本書はほとんどネーターの定理の本である。ネーターの定理とは「物理法則の何か一つの連続的対称性があれば、それにともなって一つの保存則が存在するはずである。何か一つの保存則があれば、それにともなって一つの連続的対称性が存在するはずである。」というものだ。対称性があるところには必ず保存則があり、保存則があるということは対称性があることを意味する。
たとえば、さきほどの球体の回転対称性には角運動量保存の法則が働いている。フィギュアスケートの選手が回転するとき、手を大きく伸ばしていれば回転はゆっくりだが、縮めると速くなる。角運動量が一定に保存されているからだ。
対称性は回転という変換に限らない。ビリヤードの二つの玉が衝突するとき、二つの玉は相互作用して別々に転がる。別の空間でまったく同じ状態を再現して衝突させれば、同じように転がる。そして全運動量は2回ともまったく同じである。空間の並進に対して運動量は対称である。空間に対する対称性には運動量保存の法則が対応しているのだ。
そして物理法則は時間における並進に対して不変である。厳密な環境で行うならば今日の実験結果が明日には変わるということはない。物理法則は時間という変換に対して対称性を持っているということだ。時間が進もうが戻ろうが宇宙という系全体ではエネルギーは増えもしないし減りもしないということを意味する。ネーターの定理の示すとおり、物理法則にはエネルギー保存の法則という対応を見出すことができる。
レーダーマンはさらに電荷の保存法則、バリオン総数の保存法則、クォークのカラー保存法則など、ミクロの世界、量子力学の世界における対称性と保存則について言及していく。ゲージ変換、ゲージ対称性、対称性の破れや超対称性など、変換や対称性の抽象度、複雑度が後半になるにしたがって次第に上がっていく。一般向けの本だが、後半の難易度は高めで要予備知識だ。
相対性原理、不確定性原理、量子力学、統一場理論など古典物理学と現代物理学の主要理論における対称性の役割が論じられている。こうして科学史を振り返ると、対称性を発見してそれに対応する保存則を見出すということが、科学の革新のパターンになってきたように見える。だから現代のノーベル物理学者である著者は、歴史に埋もれがちな女性科学者エミー・ネーターがいかに偉大であったか、を大いに讃えている。先にも書いたが本書はほとんどネーターの定理の本なのである。
幸運な宇宙 - 情報考学 Passion For The Future
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