「百頭女」「慈善週間または七大元素」

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・百頭女
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・慈善週間または七大元素
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「百頭女」「慈善週間または七大元素」はシュルレアリスムの代表的画家のひとり、マックス・エルンストの代表作。古い挿絵、博物図鑑、商品カタログなどから、図柄を切り抜いて貼り合わせるコラージュ絵画による物語。「二十世紀の生んだ最大の奇書のひとつ」とも評される。

「百頭女」ではすべての絵にキャプション(詩?)がつけられていて、謎めいたストーリーが展開しているが、あまりに謎めき過ぎていて理性的に筋を追いかけることは難しい。むしろ、一枚一枚の強烈な奇想イメージを連続して体験するのが本来意図された鑑賞スタイルのようだ。

不安をかき立てるような、不吉なイメージの数々。書き手も読み手も亡くなっている時代の古い書物から切り出してきた挿絵は、宗教的で時代がかった古めかしいものが多い。あとがきで、澁澤龍彦、赤瀬川源平、埴谷雄高など7人の濃い面子がマックス・エルンストの芸術について熱く語っているのだが、澁澤龍彦はこの古めかしさと不安不吉な印象の関係を、こう説明している。

「シュルレアリストたちは、細部の平俗をおそれなかった。博物学の書物の挿絵や広告写真のような平俗なトリヴィアリズムを恐れなかった。なぜかと言えば、私たちを最も不安や驚異の情緒で満たすものは、神の行うような無からの創造ではなく、かえって既知のものの上に加えられた一つの変形、一つの歪曲であるということを、彼らは直感によって知っていたからである。これがつまり錬金術ということだ。 だからエルンストのコラージュに、十九世紀のオールド・ファッションの亡霊たちが出没するのも、偶然ではない。不安や驚異をもたらす使者たちは、多かれ少なかれ、古めかしい相貌を呈しているものだ。」

「慈善週間または七大元素」にはエルンスト自身のシュルレアリスム論がついている。そこには潜在意識の解放による新しい芸術を目指したことが、端的にまとめられている。

「西欧文化の世界には、最後の迷信として、また創造神話のあわれな残滓として、芸術家の創造能力という風説が残っていた。シュルレアリスムのおこなった最初の革命的行為のひとつは、客観的な手段によって、もっとも痛烈なかたちでこの神話に攻撃をしかけることであり、そしてもちろん、この神話を永遠にうちくだいてしまうことであった。それと同時にシュルレアリスムは、詩的霊感のメカニズムにおいて「作者」の役割が純粋に受動的であることをつよく主張し、それとは反対の、理性による、道徳による、あらゆる美的配慮による「能動的な」コントロールのすべてを告発していた。」

魂(潜在意識)の表現という点では最近、話題のアウトサイダーアートにもつながる部分があるように感じた。

・アウトサイダー・アート - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-739.html

マックス・エルンストの影響を受けている作家にエドワード・ゴーリーがいる。ダークでシュールな大人向けの絵本作家だ。ウエスト・ウイングはどこの西棟ともわからぬ建物の中に、不気味な影や魑魅魍魎が見え隠れする。説明は一切なく、すべての解釈は読む者にゆだねられている。余計に怖い。

・ウエスト・ウイング
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エルンストのコラージュそっくりであるが、時代が近い分だけ、幾分かわかりやすい。

今、エルンストやゴーリーの世界観をゲームや仮想空間で再現したら、面白そうに思うなあ。

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このページは、daiyaが2008年6月16日 23:59に書いたブログ記事です。

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