人類が消えた世界
Amazon.comベストブック2007の第1位、Times誌が選ぶ2007年ノンフィクション第1位に選ばれ200万部を突破した米国の大ベストセラー。
人類がある日突然地球上からいなくなったとしたら、世界はどう変わっていくかをシミュレーションされている。数日後にはメンテナンスを失った排水機能が麻痺して、ニューヨークの地下鉄は水没する。2,3年後には下水道やガス管が破裂する。5から20年後にはボルトが劣化して木造住宅やオフィスビルが崩れ始める。200年や300年もすればブルックリン橋のような建築も崩落する。世界は野生動植物のものに戻るが1万5千年後には氷河期ですべては凍りつく。そこには人類が不在の未来史10万年、100万年、数億年先になにが起こるかが描写されている。
この本はサイエンスフィクションではなくて、ドキュメンタリであり、人類が地球環境に与えている負荷の大きさを知ることが本筋にある。今人類が消えたとしても、排出済みのCO2や破壊したオゾン層、ダイオキシンなどの化学物質の影響は数万年から数百万年は持続する。地下に埋めた放射性廃棄物に至っては数億年先の生物をも脅かすかもしれない。人類はすでに容易に取り返しのつかない爪痕を幾つも残している。
たとえ人類が滅亡しなくても、廃棄物の垂れ流しや地下に埋めて隠す方式では、同じ環境を使う予定の我々の子孫に影響を及ぼすことになる。コロラド州の防衛施設ロッキーフラッツの放射性廃棄物の処理については、遠い未来にどう危険を伝えるか、という問題が具体的に議論されている。
「アメリカのエネルギー省は、向こう1万年にわたり、ロッキーフラッツの廃棄物の大半が送り込まれたWIPPに人が近づくのを防ぐ法的義務を負っている。人間の言語の変化は速く、500年から600年後にはほとんど理解不能になるという問題が議論されたあげく、ともかく7カ国語で警告を掲示したうえに図を加えることになった。警告と図を刻んだ高さ7.5メートル、重さ20トンの花崗岩の碑がいくつも建てられ、同じ内容の直径23センチの焼いた粘土板と酸化アルミニウムの銘板が敷地全体に無作為に埋め込まれることになっている。まったく同じ三つの部屋の壁に地下に潜む危険性についてより詳しい情報を刻み、そのうちの二室も埋める予定だ。施設全体を、高さ10メートル、四方800メートルの土手で囲み、そこに磁石トレーダー反射器を埋め込む。あらゆる可能な手段を用いて、なにかが下に潜んでいるという合図を未来に伝えるためだ。」
ピラミッドやスフィンクスのような遺跡も、数千年が経過すると何のための建造物なのかさえ、私たちは読み取ることができなくなっている。放射能やバイオハザードの危険性を確実に未来に伝える方法は宇宙人のコミュニケーション並に難しい問題だ。
それから、人類が消えるシミュレーションからは必然的に、人類が消えた後の世界に人類は責任感を持つべきか、という哲学的な問題を考えさせられる。これから人類が繁栄したとしても種としてはせいぜい数十万年程度だろう。遅かれ早かれ私たちは地球を次の生物に明け渡す。
最終章にロマンチックな記述があった。この本で一番好きな一節だ。脳の活動は微弱な電波を生じる。この電波が私たちの情報を宇宙に発信していることになる。だから「電波と同じく、私たちの脳が発した信号は進みつづけるはずだ。だが、どこへ向かって?宇宙の構造は膨張する泡のようなものだといまは言われているが、それはまだ一つの理論にすぎない。ひどく謎めいた宇宙のひずみのことを思えば、私たちの思考の波がやがて元の場所に戻ってくる道を見つけると考えても、あながち不合理ではないかも知れない。」
人類の、いや生命の本質は情報なのである。そして情報は永遠に不滅かもしれないのである。
・+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ
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・成長の限界 人類の選択
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・地球のなおし方
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