J・S・バッハ
楽聖と呼ばれるバッハの人柄や生活、職場や家庭について、この本ではじめて知ることができた。バッハは世襲の名門音楽家職に生まれたが、当時の音楽家は職人の一種であった。徒弟として師に学び職人修行の末に独立した楽士になるものだった。バッハはそうした職人気質の世界でも並外れて頑固で妥協を許さない性格で知られ、それが出世にマイナスに響いた部分もあり、高名ではあるが必ずしも時代の寵児で人気者というわけではなかったようだ。そして、そうであるが故にバッハの厳格さと倹約の精神はいっそう強くなったとらしい。
バッハの音には無駄がない。そしてポリフォニー(多声)での展開を基調とする。
「バッハは倹約を通じて、情報の豊かさを獲得した。バッハの倹約の主旨は、とくに、時間・空間の無駄を、音楽に少しも許さないことにあったと思う。したがって、単位時間当たりの情報量は、バッハの音楽は当時の他の作曲家のそれにくらべて、はるかに多くなっている。」
さらにバッハは耳に聞こえる音だけではなくて、楽譜の中にメタレベルのメッセージを隠したことでも有名だ。たとえばバッハは作曲の中で、特別な数字を音符に置き換えて暗号を織り込むことがあった。3を神の数、4を人の数、7を神の聖性、10は律法、12は神の民や教会、14はバッハの名前(BACH=2+1+3+8=14)を表す。そして楽曲の構成が神の世界のパートから人間世界のパートへ移るときには、3拍子が4拍子に変化させる。謎が多いとされる「フーガの技法」の各パートは、聖書の詩篇の各章の構成と対応しているのである。バッハはポリフォニーを超えてメタポリフォニーとでも言うべき高レベルの芸術を創り出していたのだ。
「要するにバッハは、音楽を、人間同士が同一平面で行うコミュニケーションとは考えていなかったのだと思う。バッハの音楽においては神が究極の聴き手であり、バッハの職人としての良心は、神に向けられていた。バッハはオルガンに向かうとき、また五線譜に向かうとき、理想的聴衆としての神の存在をどこかで考えて、気を引き締めていたのではないだろうか。 神が聴き手だということになれば、音楽は人間の耳を超えることができる。人間の耳にはとらえられぬ隠された意味を書き込んで、それを信仰のあかしにすることもできる。」
有名な楽曲「音楽の捧げもの」は君主に捧げたものだが、バッハの芸術はまさに神への「音楽の捧げもの」だったのである。この本のバッハの人生と時代背景の解説によって、作品の楽しみ方がぐっと深まった気がする。最終章「バッハを知る20曲」では各時代・各ジャンルから20曲が選ばれ、鑑賞のポイントとおすすめ演奏CDが紹介されている。バッハ入門におすすめである。
・バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番&第2番&第3番
1000円と物凄くお買い得。
・カノン
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-740.html小説「カノン」を読んでからまた個人的にバッハブームなのでした。
・バッハ インヴェンションとシンフォニア
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004158.html
仕事の休憩時間によく聴く
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