人生を決めた15分 創造の1/10000
「カーデザイン業界で、世界中でたった1人、僕だけが達成したことがある。それは世界の3大スポーツカーと言われるコルベット、ポルシェ、フェラーリのすべてをデザインしたことだ。これは前例がなく、以降も例はない。」という世界レベルのプロフェッショナル奥山清行氏の仕事術。全ページカラーで見開きに奥山氏が仕事で描きためたスケッチが半分、本文が半分という構成。
世界の厳しい競争を勝ち抜いてきた著者は、日本の優等生や組織人に終始疑問を投げかける。たとえば日本のチームリーダーは「人を管理する」のが仕事だと間違えていると指摘がある。本来は自己管理が原則だからリーダーは人を管理する必要はなく「仕事を管理する」ものだという意見。競争が激しく転職が頻繁な世界では、管理されるような人は淘汰されて存在できない。自己主張と自己プロデュースも競争では必要だ。「自分の特徴をアピールしなければ、お客さんの期待は生まれない」。
出る杭になることを恐れるな、迷ったらやれ、好きなら極めろと、著者が言っていることは、成功したクリエイターとしては比較的オーソドックスな方向性のアドバイスだ。だが、本文と一緒に提示される、著者が何十年も描き続けてきたスケッチからは、まさに好きで極めた仕事というオーラがひしひしと伝わってくるのだ。ふたつを併せて奥山清行の生き様になることで、この本は大きな説得力を持っている。
「意見を言ってくる人は、みな「より良くしたい」と思っている。だが、100人の意見を全部取り入れてしまえば、ものすごくつまらないものか、化け物みたいなものしかできない。」。強引に進める自分の仕事の方向性が正しいかどうか、迷ったときに思い出したい言葉だ。
「時代がMBAをもてはやすようになれば、人を見る目のない管理職とのたまう輩は、面接しても紙に書かれた資格だけをもとに相手を評価する。そして実際は本人がやったかどうかもわからない業績を基に、高い給料で役に立たない資格保持者を雇う。」。なんて痛快な発言だろうか。
タイトルの「人生を決めた15分」はなんとフェラーリ会長の前で新車をたった15分でデザインした著者の武勇伝だ。しかし、物理的時間ではたった15分であっても、そこには著者の経験と情熱のすべてが濃縮されていた。
「僕らの商売には「ハレとケ」ではないが、2つのモードがある。1つめは「溜め」で、自分の中で材料を溜め込み、熟成し、並べ替える作業をしている。これは外から見ても知ることのできない部分で、一見何もしていないかのようだ。もう1つは「発散」で、一気阿成」にアウトプットするモードだ。絵を描き、シナリオを形にし、成果物として世に問う。人はこの部分だけを見て、仕事をしていると思うものだ。」
誰の力でもなく自分のブランドで戦ってきた人だからだろう、この人の自慢話はどれも清々しい。いつか自分もこんな仕事をしてみたいと情熱の火を焚きつけられる。クリエイティブの世界で一流の仕事をしたいすべての人たちにおすすめ。
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