戦場の生存術
1942年生まれ、1961年慶応大学在学中に傭兵部隊の一員としてコンゴ動乱に参加、その後、フランス外人部隊教官を経て、アメリカ陸軍特殊部隊に加わる、というプロフィールの日本人傭兵が書いた、正真正銘のサバイバル術。そんじょそこらの趣味的サバイバル本とはレベルが違う。
前半では実戦の常識が語られる。たとえば敵の数の把握の仕方として足跡からの推測法などが紹介されている。山で遭難したとか、外国で誘拐されたとき、など非常事態に使える(かもしれない)ノウハウとして参考になる(ような気がする)。
「アメリカ陸軍の方式は、かなり人数がいても正確に出る。すなわち75センチから90センチ程度の間隔の線を、足跡がたくさんあるあたりに引く。それから線にひっかかっているのを含め、すべての足跡を算え、その総数を単純に2で割る。これでやると何と18人くらいまでほとんど確実に割り出すことができるのだ。」
男女の違いはつま先の向きに出るから性別までわかるらしい。満腹時に腹に被弾すると命がないから満腹まで食べるな、現地語は知っていても知らないふりをして一方的に情報を得よ、と戦場で生死を分けるポイントが次々に語られている。
圧巻は後半である。そこではもはや日常世界のモラルがまったく通用しなくなる。自分が殺されないために相手を殺す話が満載である。殺されてしまえば何もないのだから、戦士にとって、もはや武士道も法律もないのである。これは経営や人生にも活かせるなと思える話はのっていない。純粋に本物のサバイバルの話だ。
「敵の重傷者を完全に動けなくして、その身体の下へ安全ピンを抜いた手榴弾をセットしておくのは効果的なやり方のひとつだった。」。助けにきた敵の仲間を吹き飛ばすブービートラップのこと。
「だから戦闘が終息に向かっていない限り、降服の意思表示は無視するべきだ。全体が抵抗を止めない限り、攻撃を加えた方が賢明と言えるだろう。」。降参したふりをして攻撃してくる兵士もいるから、全部基本は皆殺し。
「早いとこ白状し、その内容が正確だったら、吐いた人間は生かしておく。もう敵方に戻れないから、こちらの協力者として働くことが多い。また別の利用価値が生じてくるのである。ただ拷問を受けてからようやく吐いたのはダメだ。いつか裏切られるから助命すべきではないだろう。」。助命すべきじゃないのである。
嗚呼。
平和ボケしている私たち日本人だが、平和ボケしていられることの幸福をかみしめるために、この本は価値があると思う。こんなノウハウが使われる日が来てはいけないし、一般人が知る必要もないのがよい社会のはずだ。ただ、戦争の恐ろしさを確認するために価値がある一冊かもしれない。老人の戦場体験よりも恐怖のリアリティが伝わってくる。
・戦争における人殺しの心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/03/post-365.html
・SAS特殊任務―対革命戦ウィング副指揮官の戦闘記録
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/sas.html
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