日本文化の模倣と創造―オリジナリティとは何か

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・日本文化の模倣と創造―オリジナリティとは何か
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コンテンツビジネスに関わるすべての人が一読の価値ありの名著。

日本と世界の文化史における模倣と創造の関係を多面的に検証し、ものまねではないオリジナリティの追究という幻想を打ち壊す。歴史を振り返ってみれば、ものまねこそクリエイティティの源泉だったのである。

冒頭で紹介されている、類似したものを選ばせる認知実験の結果が興味深い。異なる観点で似ているものを指摘させた場合、西洋人は形状的な特徴の類似を重視する人が多いのに対して、日本人は色彩・素材・質感・肌ざわりなど非形状的な特徴に着目する人が多いという結果が出ている。

「この傾向は、一見似ても似つかないもののあいだに類似点を発見する能力、すなわち「見立て」につながる。日本で「見立て」の文化が華開いたのは、案外、日本語が持つ文法構造のせいなのかもしれない。」

こうした類似性の認知能力をベースにした模倣によって、日本や世界の文化は発達してきた。特に日本の伝統文化には芸道の「守・破・離」や家元制度などは、先人の技芸の模倣から発展していく「再創」の文化であった。浮世絵の特徴を数量化した研究では、それぞれが独創的に思える絵画も、作風や流派によって客観的な類似点があることが判明する。ものまねが美を生み出してきたのだ。

そして大量複製技術の登場によって、模倣は一層重要なキーワードとなる。

たとえばモナリザはなぜ有名なのかといえば、写真などのコピー技術の普及で広くその複製が目にされたからだと著者はいう。オリジナルのモナリザを肉眼で見たことのある人はそれほど多くはない。モナリザが価値あるオリジナルであるのは、大量のコピーのおかげなのだ。

これは合法・違法のコピーが氾濫するインターネット時代において大変に興味深い理論だ。「コピーされた図像が普及すれば、オリジナルの価値はたかまる。皮肉なことに、絵画のオリジナル性は、コピーの広がりの程度によって規定される。オリジナルであることは、コピーであることの裏返しだとするならば、オリジナルはそのコピーとの関係的な価値に過ぎず、オリジナルに何か実体的な価値を想定すること自体が誤りだということになる。」

著作権はかたちを変えていかねばならない。それには文化を保護するための著作権という考え方を改めないといけないようだ。そもそも日本に「コピライト」を輸入したのは福沢諭吉であった。この本はその経緯をよく調べている。福沢自身が出版ビジネスによって財をなした人でもあった。日本における著作権の起源がこう結論されている。

「諭吉は、「著者の知的な創造に対する権利」という今日的な意味での権利の保護を主張したのではない。諭吉は、「コピライト」をあくまでも経済の原理として考えていた。諭吉をもって日本の著作権とするならば、著作権は最初から文化の問題ではなく、経済の定則として主張されてきたことを、われわれは再認識する必要がある。」

後半はテクノロジーの世界のオープンソース文化について言及している。リチャード・ストールマンをはじめ、オープンソース運動の担い手たちは、禅や日本的思想に通じている人が多い。いうまでもなく、オープンソースは典型的な再創のコミュニティである。元IBMで情報学が専門の著者は、日本の連歌の手法になぞらえて次のように語る。

「オープンソース開発に優秀なプログラマを終結させるには、連歌の「発句」にあたるプロトタイプ、あるいは開発の目標が魅力的であることが大事である。魅力ある「発句」でなければ、よき会衆を得ることは困難である。」

そう、このよき発句あるところに人が集まりCGM(ConsumerGeneratedMedia)の華が咲くのだ。2ちゃんねる、ニコニコ動画、ブログ、SNSなどインターネットの創造性の大半は、よき発句から生まれたもの、だろう。

良い発句とは、連歌書の古典「筑波問答」によれば次のように規定されていた。「先づ、発句のよきと申すは、深き心のこもり、詞やさしく、気高く新しく、当座の儀にかなひたるを、上品とは申すなり」。何世紀も前に再創の本質がここまで看破されていたとは驚きだった。この文言を会社の壁に貼ってやろうかと思った。

このように著者の着眼点が鋭く、論証に説得力がある。最初から最後まで50枚近い付箋を貼って熟読し、最後にこんな結びがあった。まさにそうした新しい時代の模索を始めるための教科書として読むべきだと思う。

「デジタルコピーの力によって、情報の排他的な所有という近代のパラダイムは終焉を迎えるだろう。わたしたちがいまするべきことは、デジタルのコピー力を人類の文化的な豊かさにつなげるための方法を模索することではないだろうか」

・日本という方法―おもかげ・うつろいの文化
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/01/post-508.html

・模倣される日本―映画、アニメから料理、ファッションまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003155.html

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このページは、daiyaが2008年5月19日 23:59に書いたブログ記事です。

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