蟹工船・党生活者
プロレタリアート文学の名作 小林多喜二の「蟹工船」が、例年5倍の異例の売れ行きで、2万7千部を超える増刷がかかったと読売新聞が報じている。1929年世界大恐慌のころの作品だ。死ぬまで船の上で働かされた労働者たちの姿が現代のワーキングプア層の共感を得ているということらしいのだが...。アマゾンで売り切れていたので、丸の内の丸善で平積みになっていたのを購入。
・「蟹工船」再脚光...格差嘆き若者共感、増刷で売り上げ5倍
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20080502bk02.htm
蟹工船は実によくできた小説だ。貧しい労働者たち400人が高級カニ缶詰をつくるため蟹工船に乗って北の海へ行く。蟹工船は工場だから航海法が適用されないオンボロ船。遠方の海洋上にあっては労働法も平気で無視される。劣悪な環境下で徹底的に搾取される日常と、死の制裁によって殺されていく同僚の姿を見て、労働者たちは遂に戦う決意をする。暴発するまでじわじわと高まっていく集団の緊張感がリアルだ。
格差社会の文脈と重ね合わせるのが適切かどうかはよくわからないが、人間心理や群集心理をスリリングに描いた迫力あるドラマだから、なにかのきっかけで再読されると人気が出るのだと思う。
小林多喜二の死というメタ視点から漫画が始まるが、ストーリーは「おい、地獄さ行ぐんだで!」という有名なセリフから、とても小説に忠実に物語を描いている。解説なしでは小説で理解しにくかったシーンが、ビジュアライズされていてわかりやすい。小説や作家の背景を扱う巻末の解説もとても充実している。まさに大学生のための、という作品。
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http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-741.html
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