レクイエム
朝起きると居間で妻がどんよりとしているので、どうしたのかと聞くと午前3時頃目が覚めてしまったので、私が机の上に置き忘れた篠田節子の短編集「レクイエム」を読んだのだという。1本目の「彼岸の風景」を読んだら人の生き死にの話で重たかったので、このままじゃ寝れないと思ったそうだ。ラストの標題作「レクイエム」が短かったので口直しのつもりで読んだら一層重量級でとうとう朝まで眠れなくなったという。
長編が得意な篠田節子だが、短編も完成度が高い。世界観が確立されているから、一本読むと次にひきこまれる。不吉なムードの作品ばかりなのだけれど朝まで読みたくなってしまう気持ちはよくわかる。
あとがきで短編のあるべき姿を自らこう語っている。「優れた短編小説は決して小さく愛らしく洒落たミニアチュールではない。優れた短編小説の要件とされる、鋭い切れ味、驚き、人生の一断面を切り取る鮮やかさ、人情の機微、といったものに私は関心がない。短い物語の中には、人生の一断面ではなく、複雑な世界を丸ごと封じ込めることもできると信じている。」
設定は6編ともまったく違ってバリエーションが豊か。
・死期の迫った夫との里帰りで起こる不思議「彼岸の風景」
・神様に翻弄される女性の忙しい一生「ニライカナイ」
・仕事人生に挫折した中年女性が迷い込む都会の迷宮「コヨーテは月に落ちる」
・橋の下のテントに暮らす老人たちの人生をのぞきこむ不動産営業マン「帰還兵の休日」・隣家の幼児虐待を発見してしまった独身女性の葛藤「コンクリートの巣」
・死んだら腕を一本パプアニューギニアに埋めてくれと遺言した大教団幹部の伯父の真意を探る「レクイエム」
共通しているテーマは喪失と鎮魂ということ。人間は若さや可能性と引き換えに、人それぞれに違ったなにかを手にして、自分の人生を飾っていく。そうした飾りにあるときふと虚しさを覚えた人たちが主役の物語だ。30代後半以上の人におすすめ。
・カノン
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-740.html
・弥勒
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005292.html
・ゴサインタン―神の座
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005260.html
・神鳥―イビス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005177.html
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