ワールドインク なぜなら、ビジネスは政府よりも強いから
著者は国家より企業が強大な力を持つ時代になったことを次のような事実で指摘して見せた。
・世界の経済主体の規模を比較すると、上位100位に含まれる51の組織は企業であり、国家ではない。
・海外資産の20%を、多国籍企業の最大手100社がコントロールしている。
・世界の総資産の25%は、多国籍企業の大手300社により所有されている。
・世界貿易の40%もが多国籍企業の間で行われている。
・国内総生産(GDP)が、世界最大手六社のそれぞれの年間売上高を上回る国は、二十一カ国しかない。
もはや世界経済の主役は国家ではなく大企業であり、それらの企業の持続的成長の最大の課題は社会ニーズへの対応にあるとする。アダム・スミスの国富論的経済学の終焉と新しい経済社会原理への転換が起きようとしていると説く。
新しい世界では、企業は従来の「価格の引き下げ」「品質の向上」という目標に加えて「社会のニーズへの対応」が強く求められる。政府の規制によって取り組むのではなく、自ら社会ニーズを追及していく姿勢が消費者に高く評価され、強力な社会ブランドとなる。それが新しいワールドインク時代のゲームの勝者は、社会対応の前線=Sフロンティアで勝利をおさめなければならないと著者はいう。
社会やエネルギーに対する配慮をハイブリッドカーに織り込んで世界をリードするトヨタ、社会のデジタルデバイド解消(e-inclusion)のイニシアチブをとるHPの2社について、章を割いてのケーススタディがある。
世界経済を揺るがしたエンロン・ショックの後に、投資家もまた考え方を変え始めている。キャップジェミニ・アーンスト&ヤング社は「今日の経済は、ナレッジやR&D、イノベーションなどの資産を基盤としており、これまでにない課題を提示してくる。それは無形資産を評価するという課題だ。」という考え方で、新しい企業価値の評価方法バリュー・クリエーション・インデックス(VCI)をつくった。
VCIは「ブランド開発やりーさーシップ教育、研究開発への企業による投資は、いまや有形資産への投資の総額を上回る。」とし無形資産を定量化する指標だ。現状より遅れて現れる(売上や利益のような)遅行指標ではなく、環境対応や労働政策、企業ガバナンスへの対応のような先行指標の比重が高い指標である。
著者が語るような社会対応型資本主義が実現されれば、世界を良くしようとする消費者、企業、投資家たちが自然と経済的に勝者となり、世界はバラ色になっていくように思える。重要なのはその前提となる「グローバル・エクイティ文化」が社会に広く浸透するかどうかだろう。そのためにもこの本に数例あげられたような成功企業の事例分析がなされることが、まずは説得力になるのではないかと思った。
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