目をみはる伊藤若冲の『動植綵絵』

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・目をみはる伊藤若冲の『動植綵絵』
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江戸時代の画家 伊藤若沖(1716-1800)畢生の大作「動植綵絵」全30作品をカラー印刷で収録。全体図だけでなく、主要部分の拡大図も用意されているので、細部をじっくりと鑑賞できるのが素晴らしい。美術館でもこれだけ精細に間近では見られないだろう。

有名な「南天雄鶏図」に代表される鳥の絵が鬼気せまっている。ニワトリやオウムのくせに威厳にみちていて神々しい。かっと見開く鳥の目に見る者は威嚇される。まさに目をみはる絵だ。

若沖は自分の絵について「いまのいわゆる画というものは、すべて画を画いているだけであって、物を画いているものはどこにもない。しかも画くといっても、それは売るために画いているのであって、画いて画いて技を進歩させようと日々研鑽するひとに会ったためしがない。ここが私のひととちがっているところである。」と述べている。自分の目でみたものしか描かない。徹底的なリアリズムで対象に迫る。物と若冲が対峙するところに「神気」が生じると若冲のパトロン大典和尚は評している。

裕福な商家に生まれた若沖は、幼少のころから学ぶことが嫌いで、趣味もなく、およそ才能というものと無縁な子供と周囲には思われていた。ひとづきあいが下手で家業をまともに継ぐことができず、丹波の山奥に二年隠れていたという説もある。変人として生涯独身を通した。

絵は二十代後半に始め、狩野派に学ぶが中国絵画の模写や流派の真似ごとが嫌になる。自分の目で見たものを見たままに描くスタイルを確立するのは40を過ぎてからであった。屈折した性的願望を妖艶な美に昇華させたと多くの研究者が指摘しているように、内に貯め込んだ情念が噴き出しているように感じる。これは一種のアウトサイダーアートであるといえるのかもしれない。

この本は全作収録しているので発見もあった。動植綵絵30作には昆虫や魚介を描いた作品も含まれているのだが、若冲の描く昆虫や魚介は図鑑の挿絵風で標本みたいで覇気がない。今にも絵を抜け出て暴れまわらんとする迫力の鳥獣の作品に比べると格段に精彩を欠くのである。さらにいえば植物も太い線でワンパターンな印象がある。若冲は鳥にしか萌えなかったトリオタだったことがよくわかる。

動植綵絵は現在は宮内庁が所蔵している。昭和45年に京都御所で全30幅が風通しされ、それを見た外国人の若沖収集家プライスは男泣きに泣いたという話が紹介されていた。縮小印刷でも相当の迫力がある。実物大の動植綵絵に囲まれたら、普通の人間でも絶句して泣いてしまうかもしれないなと思う。

・綺想迷画大全
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005221.html

・怖い絵
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005184.html

・神鳥―イビス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005177.html
モデルは若沖のような気がする小説

・アウトサイダー・アート
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-739.html

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このページは、daiyaが2008年5月 1日 23:59に書いたブログ記事です。

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