アウトサイダー・アート
先日こんな映画を観てきた。
・映画『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』公式サイト
http://henry-darger.com/
1973年シカゴで貧しく孤独な雑役夫ヘンリー・ダーガーが81歳で死んだ。「ダーガー」という発音が正しいのかさえ実はよくわからない。「ダージャー」かもしれなかった。ダーガーには身寄りがなく、普通の人づきあいというものもほとんどなかったから、そんな基本的なことさえ謎なのだ。ダーガーは何十年間も、仕事から帰ると自分の部屋に閉じこもって何かに取り組んでいたのだが、何をしているのかは誰も知る由もなかった。
ダーガーが病院でなくなる死の直前に、彼の部屋で発見されたのは15000ページに及ぶ自作の小説と、3メートルもある巨大絵画300枚であった。おそらくひとりの人間が書いた
最長の作品のタイトルは「非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコーアンジェリニアン戦争の嵐の物語」。彼は誰に見せるつもりでもなく、睡眠時間さえ削りながら、ただ黙々とこの作品を作り続けていたのだ。
その内容は、子供たちが奴隷にされている世界で支配者に立ち向かう7人の少女軍団が活躍する壮大な妄想ファンタジーであった。そこには自身の不幸な幼少期が重ねあわされている。奴隷はかつてのダーガー自身であったことは間違いないようだ。
巨大絵画はその挿絵である。ダーガーの描く少女たちにはペニスがついている。映画の解説によると、ダーガーは現実の世界で異性と関係することがなかったため、性知識がなかったから、という説が有力らしい。81歳まで無垢に、童貞を守った男だったのだ。登場人物の多くは中性的というか無性的な印象が強い。
絵画は雑誌や書籍の挿絵や写真を切り抜いたり、トレースしたり、コピーしたり、いわゆるコラージュの技法でつくられている。ダーガーは社会と接点を持たなかったが、メディアに写ったイメージの切れ端を寄せ集めて、自身の世界に再構築していた。現実世界とのズレが強烈な印象を与える。
社会的に孤立したダーガーのような変わり者や、自身が作りだしたカルト宗教の信者、精神病の患者、囚人や交霊術師など、専門的な美術教育を受けていない人々が内的衝動のままに作り出すアートが、アウトサイダーアートである。
この「アウトサイダーアート」には30作家140点もの、<外>に位置する作品がカラーで収録されている。ダーガーはこの中ではまだ常識的な表現者であるように思える。明らかに境界を越えてあちらへイってしまった作品ばかりである。
恐怖、歓喜、抑圧、憑依、狂気など、それぞれの強い衝動に駆り立てられて作り出される異端の美術作品群。何かにとらわれていることが明らかな絵を見ていると、中から手がすっと伸びてきて、こちらまでとらわれそうになる怖さがある。
伝統的な美術館に飾られる絵とは決定的に違う。これまでにない価値を創造するという点では、芸術家はみんなアウトサイダーだと言えるかもしれない?。いやいや、このアウトサイドぶりは、そんな普通の同心円の外側じゃないのである。時空を破って歪んでみえるような<外>なのである。
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