2008年4月アーカイブ
町田康のナンセンス追求系の最新作。笑える。
「嘘が溢れる世の中で唯一信じられるもの」としての写真に、町田が真っ赤な嘘の付帯文章を書く。フォトグラフ+フールでフォトグラフール。首から上がヤギに見える男の呟きだとか、ラクダのぼやき漫才だとか、ネタになる写真からして既に意味不明なのだが、そこから無闇に広がる妄想世界のバリエーションが楽しい。作家町田康が物語を発想する瞬間を見ている気がする。
この本はまえがきから嘘で固められている。これらの写真はどこから持ってきたとか、どういうコンセプトでこの本を書いたとか、説明が一切ない。あとがきにあるかなと思ったがやっぱりない。それぞれ読み切りコラムかとおもいきや、微妙に連作になっていたりする。形式としての完成度は高くない。
町田康の経歴。「1962年大阪府生まれ。作家、歌手、詩人として活躍。96年に発表した処女小説『くっすん大黒』でドゥマゴ文学賞、野間文芸新人賞、2000年『きれぎれ』で芥川賞、2001年『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞、2002年「権現の踊り子」で川端康成文学賞、2005年『告白』で谷崎潤一郎賞を受賞」。
受賞歴だけ見ていると立派な現代の文豪である。それなのにこんな脱力系の遊びを70回も雑誌で連載して出版してしまうところが、いいよなあと思う。町田康の大作の合間に脱力しながら読むとぴったり。
・土間の四十八滝 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-733.html
・悪人 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-603.html
・告白 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/10/post-474.html
著者の橘川さんとはかれこれ5年以上お会いしていないのだが、私にとっては恩人の一人である(と勝手に思っている)。橘川さんは1996年、まだ私が学生をしている時代に「デジタルメディア研究所(略称デメ研)」を設立され、大手メーカーのマーケティングプロジェクトなどをプロデュースされていた。その一環の座談会に私は何度か呼んでいただいたのだった。
ほんのお小遣い稼ぎのつもりで参加したのだが、それはちょっとした感動だった。まずフリーランスでありながら大企業のマーケティングに対して強い影響力を持つ、そのカリスマぶりにしびれた。
そのころから私は雇われない生き方に憧れていた。フリーランスやベンチャーという生き方候補のモデルケースとして橘川さんが強く印象に残った。実は「ロッキングオン」という伝説的な雑誌の共同創業者であったり、パソコン通信の時代からデジタルメディアのマーケティングの専門家として有名な方であったということなどは、はずいぶん後になって人から聞いて知ったことだった。当時は、ただただ、目の前の颯爽とした橘川さんがかっこいいオヤジだなあと思ったのだった。
それで「橘川さんという面白いオヤジと出会ったよ」と知人らに話したところ、「実は私は(僕も)デメ研の秘密研究員なんだよね」という人が複数出てきて、その証のロゴマークのシールを見せびらかされたりした。よし、私もいつかはデメ研の秘密研究員に任命されるほどの人間になってみせようぞと、密かに思っていたのであった、あれから10年。
この本はその橘川幸夫語録である。本を手にしたとき、いくら橘川先生とは言え「存命中に本人が自分語録を出すってどうなの?」と正直思ったが、開いてみると教条的厭らしさはまったくないっていうか、もろにロックでパンクである。不良である。ぶんなぐられた気がする。
私が気に入った名言ベスト4を紹介する。
「あなたがどんな人間かは、あなたがどんな音楽を聴いていて、どんな服装をしているかでわかる。でも、そんなわかられ方って屈辱だろ?」
「思想というのは自分の中を鋭く突きぬけていくものと、自分の中をさわやかに吹き抜けていくものがある。人もまた。」
「友だちの友だちは、赤の他人に決まってる。1対1の関係をなめないように。」
「誰にも言えないことがあるとしたら それはむしろあなたの宝物として扱え」
「負けたフリして諦めない。逃げたフリして攻めあげる。」
「言葉は社会遺伝子である。個人が見たこと聞いたことを、言葉という遺伝子にして次の時代に手渡すのだ。」という使命感で書かれたそうだ。とりあえず私は受け取りましたよ。
おかげさまで11回目を迎えるテレビとネットの近未来カンファレンス。
今回のテーマはずばり動画ベンチャーです。
内容は下記のとおりです。
第11回テレビとネットの近未来カンファレンス ~ 「動画検索ビジネス最前線!」~ネット動画の検索に挑むベンチャー、その展望と戦略~ ~
http://www.tvblog.jp/event/archives/2008/04/
動画検索のプレーヤーらが集結--第11回「テレビとネットの近未来カンファレンス」、5月20日開催:ニュース - CNET Japan
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20372196,00.htm
たくさんのご来場をお待ちしております。
テーマ「動画検索ビジネス最前線!」
~ネット動画の検索に挑むベンチャー、その展望と戦略~
2008年、日本の動画共有サービスも、ついにJASRACやJRCの許諾が決まり、メジャーコンテンツと共に、ユーザーが自由に楽曲やコンテンツに対して積極的に参加できるようになりました。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/27/news064.html
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080413mog00m300018000c.html
さらに、YouTubeではビデオ投稿するユーザーに対し、アフィリエイトとしてではなく、広告費を分配するというレベニューシェアのビジネスモデルがついに日本でも開始となりました。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080417/299424/
これは、もはや「CGM VS オフィシャルコンテンツ」との構図?、もしくは、全く新しい動画共有市場誕生の前兆なのかもしれません。
そこで、今回のテーマは、時間軸に支配される「ネット動画」の世界を、できる限り、無駄な時間をかけずに、効率よく検索するための動画検索サービスにフォーカスを当ててみました。
「動画検索の明日」を開拓中のベンチャー企業を招き、動画検索ビジネスがもたらす、新たなビジネスの未来図を具体的にイメージしてみようという企画です。
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テーマ「動画検索ビジネス最前線!」
~ネット動画の検索に挑むベンチャー、その展望と戦略~
【日時】2008年05月20日(火)開場18:00 開演18:30-20:30
【場所】東京ミッドタウン/ミッドタワー4F
お申込みはここをクリック
●第一部:プレゼンテーション「動画検索ビジネス最前線」
動画検索ビジネスの最前線プレイヤー3社から、動画検索がもたらす動画コミュニケーションの変化とビジネスモデル、動画検索ビジネスのもくろみ等をそれぞれの立場で語っていただきます。
1)オモロ動画検索視聴サービス「サグールテレビ」
チームラボ株式会社
代表取締役 猪子寿之氏
http://sagool.tv/
http://sagool.jp/
2)動画検索エンジン「Fooooo」
株式会社バンク・オブ・イノベーション
取締役 富島寛氏
http://www.fooooo.com/
3)みんなで作る動画検索「SAGURI」
株式会社メタキャスト
取締役チーフ・ビジョナリー 井上大輔氏
http://saguri.jp/
●第二部:パネルディスカッション 「動画検索サービスの明日」
ベンチャー3社からのパネリストに加えて、大手事業者からのゲスト参加も企画中(当日発表予定)。会場からの質問・参加を交えての本音トークを実現したいと思います。
モデレータ:神田敏晶氏・橋本大也氏
■イベント開催概要
【日時】2008年05月20日(火)開場18:00 開演18:30-20:30
【場所】東京ミッドタウン/ミッドタワー4F
http://www.tokyo-midtown.com/jp/access/index.html
【参加費用】5,000円
【協賛】シーネットネットワークスジャパン株式会社
【お申し込み】http://www.tvblog.jp/event/archives/2008/04/ ※Web申込の先着順で締め切らせていただきます。お申し込みはお早目に!
■懇親会
動画共有ビジネス 懇親会(21:00-22:30くらい)
セミナー終了後、参加希望者で開催いたします。
費用:別途 3,000円程度
■参考情報:過去のカンファレンス内容について
第10回:「テレビとネットのビフォー&アフター」
第 9回:「デジタルコンテンツの利用・流通・著作権の行方」
第 8回:「Joostインタフェースに見られるデジタル時代のテレビインタフェースの行方 第 7回:「"ポストYouTube時代":次に来る波を予言する」
第 6回:「映像デバイスの未来、ブラウザメディアの未来」
第 5回:「ネット映像新時代、テレビは変わるのか?」
第 4回:「テレビ×Web2.0 = テレビ2.0」
第 3回:「テレビとネットの融合」って結局どういうこと?
第 2回:「CMスキップとビデオポッドキャストがもたらすTVへの影響?」
第 1回:「テレビとネットとCGMがおりなす、新たなTV生活!大胆予測」
・Opanda PhotoFilter
http://www.opanda.com/en/pf/index.html
最近のデジタルカメラやレタッチソフトの一部は、「Velvia風」とか「Astia風」のようにフィルム再現モードを搭載してフィルムカメラ好きを喜ばせている。典型的な例のDxO Film Packはフィルム風に加工することだけに特化した、マニア向け画像処理ソフトである。
リバーサル フィルム、 白黒フィルム、 カラーネガ フィルムの有名ブランド商品をシミュレートできる。
・フィルム画像感を再現するサンプル
http://www.dxo.com/jp/photo/filmpack/available_film_looks
そして、この記事で紹介するOpanda PhotoFilterはフィルムではなく、有名ブランドのフィルターの画像感を再現するソフトウェアだ。Kodak、Cokin、Hoyaの100種類のフィルター(日本ではケンコーが扱うCokinが有名か)がシミュレーションできる。
デジタルカメラは汎用的な画像加工ソフトでちょちょいといじれば修正が可能なわけだが、現実に存在するフィルムやフィルター名のプリセットは、なんだかありがたい気がする。
・FaceFilter
http://www.reallusion.com/press/event/FaceFilterXpress/ff_promo.asp
顔写真の修正というと、赤目を補正するとか、にきびを消すとかが思い浮かぶが、このソフトウェアは、なんと顔の表情を変えてしまう。無愛想なモデルを笑わせたり、怖そうなおじさんを優しそうなおじさんに変換することができる。
写真の中の顔の領域を最初に指定する。ガイドに従って、左右の目元、口元の位置をポイントすると顔認識の設定は終了する。あとは表情を「親切そうに」「自信ありげに」「若々しく」「優しそうに」などの項目から選ぶと、顔写真が見事に「修正」されてしまう。
なお、修正テンプレートには魅力を増すための「Attractive」テンプレートモードと、愉快な「Fun」モードがある。上のテンプレートはFunモードを使って、私が少しにやにやしている写真を無理やり怒らせてみた例。
Mixiのプロフィール写真やお見合い写真だとかによい、かなあ。
Web上で動作するLive版もある。
・FaceFilter Live Demo
http://fflive.reallusion.com/
・HDView
http://research.microsoft.com/ivm/HDView.htm
Microsoft Research Interactive Visual Media groupの研究。
デジタルカメラの解像度は1000万画素もあたりまえになってきた。業務用のデジタル中判カメラでは数千万画素、1億画素という機種も登場している。カメラの解像度があがっていく一方で、一般的なモニターの画素数というのは100万画素~200万画素であるという。超高解像度の画像を表示すると、全体の1000分の1程度しか一度に表示することができない。また超高解像度で撮影される映像にはパノラマ写真も多い。360度の映像は平面ではなく、仮想的な曲面にマッピングして表示した方が、ゆがみが少なくて美しく見える。
そうした問題意識から開発されているのがHD View。直近の画面表示に必要な必要最小限なデータをダウンロードし、巨大画像のスムーズなパンと回転を実現する。インターネットエクスプローラのプラグインとしてベータ版が配布されている。サンプルでは800枚の小さな写真から合成された4500万画素の写真画像を、普通のモニターで見やすく表示するデモなどがある。
しばらく待っていると粗い表示が精細な画像に変わって、1枚の大きな画像をじっくり味わってみることができる。静止画を映像的に楽しめる。これって今は実験的なアプリだが、近い将来には、高解像度の写真の普通の楽しみ方になるかもしれない。
・haltadefinizione
http://haltadefinizione.deagostini.it/en/
こちらは「最後の晩餐」を16億画素で撮影してインターネット公開しようとしているプロジェクトHAL9000 のサイト。美術館へ行くよりも間近に質感まで味わえる感じで圧巻。
・MSIEのお気に入りをキーワード検索する grepmark
http://www.gridsolutions.co.jp/products/other/index.html
インターネットエクスプローラのお気に入りをキーワード検索するソフトウェア。
気がつくと何百件もの大量のブックマークが並んでいて、もはや整理不能な状態に陥っているものぐさブックマーカー(私)にとって大変便利なソフトである。使い方は起動してキーワードを入れるだけ。複数キーワードでAnd/or検索も可能。
デスクトップ検索とはまた違った使い勝手の良さを感じる。
過去の検索ヒット回数を数値で表示し、ヒット数の多い順に表示する機能がある。つまり、ユーザーが探す回数が多いブックマークほど上に表示される。使えば使うほど、ユーザー好みの順で情報が出てくるようになる、ようだ。
説明書通りにキーボードショートカットを作成すると、即座に呼び出せてさらに使いやすくなる。
・FotoSketcher
http://www.fotosketcher.com/
写真を鉛筆画風に変換する画像処理ソフト。類似ソフトは商用含めていっぱいあるが、簡単に私が好みの結果が得られて気に入っているのでこれを紹介する。
簡単なソース画像の露出補正機能もあるので、必要であれば最初に明るさなどを調整する。そして次に
1 Pencil Skecth
2 Pen & Ink Sketch
3 Painting Type1
4 Painting Type2
の4種類のプリセットから返還パターンを選ぶ。
さらに細かなパラメーターをユーザーが設定することも可能である。上のサンプルでは両方とも4を利用している。ソース画像によってはなかなか鉛筆画風に見えないこともあるが、テクスチャをStrongに設定するとそれっぽく見えることが多いようだ。
1の鉛筆画も味がある。
絵葉書とかTシャツ用のデザイン画像をつくる際に、この変換は良い効果が得られそう。
・キャプチャーイット! ツールバー
http://www.craftec.co.jp/captureit/toolbar.html
Webのキャプチャーを簡単にとるツールバー。ブラウザを含む全体を撮影する、表示領域のみをキャプチャする、指定した範囲をキャプチャするというモードのほかに、ページをスクロールして縦長の全体キャプチャを得る機能があって便利。
撮影したデータは自動的に指定フォルダに蓄積されていく。プレゼン資料などでWebを紹介するときに、URLだけよりもキャプチャがあった方が説得力が増す。
無料版と有償版があるが、無償版でも十分に便利に使える。有償版には設定した時間ごとにホームページを自動更新してスクロールしながらキャプチャする『定期キャプチャ』機能などがある。
「今からおよそ500年前に、レオナルド・ダ・ヴィンチは「すべての色の組み合わせで最も心地よく感じられるのは、相対立する色から成り立っている場合である」と述べた。このとき彼は、意識することなく生理学的事実を述べていたことになる。しかしながら、それが事実であることは、今から40年ほど前に、反対色特性が発見され、そこで初めて生理学的に証明されたのである。赤で興奮する視覚系の細胞は緑で抑制され、黄色で興奮する細胞は青で抑制され、白で興奮する細胞は黒で抑制されること(その逆もすべて正しいこと)が生理学的に確かめられたのである。」
美術の目的は脳機能の延長にあるという科学的美術論。ピカソ、フェルメール、ミケランジェロ、モネ、モンドリアンなど古今東西の美術作品を、脳はなぜ美しいと感じるのか、脳科学の研究成果と結びつけて解説していく。美とは何かという哲学的問題ととらえられてきた難問に対して、著者は明解な科学的な回答を提示する。
たとえば、脳の生理学の研究によって、特定の傾きの線に選択的に反応する脳細胞の一群があること。抽象絵画と具象絵画では脳の活性化する経路が異なること。描かれた人間の顔や表情の小さな相違を脳は敏感に検出し反応すること。そして、それらの細胞の発現は多くが遺伝的要因によってコントロールされている。いわば美意識というのは進化の過程で遺伝子に埋め込まれて「先在」しているのだと著者は主張する。
それがものすごく複雑なものであるがゆえに現段階では技術的障壁あるにせよ、著者らの研究は、脳のツボをうまく押せば人は美を感じるのだと言っている。そして「脳内の細胞は紫外線には反応しないので、紫外線美術は存在していない。美術は結局のところ、脳の法則に従わねばならないのである。」と美術の限界も指摘する。
もちろん、美は脳細胞の反応に100%還元できるものではあるまい。背景知識や十分な経験、卓越した境地を得たうえでしか味わえない深いレベルの美もあるはずだ。視覚系の研究だけでは美を完全解明することはできないだろう。しかし、生物としての人間に先在する視覚脳の存在こそが、人類共通の美的価値を保証するものでもあるのだともいえるわけだ。
本書には脳の反応パターンとの絡みで有名な芸術作品が多数カラーで掲載されている。天才芸術家たちは、意識的にせよ、無意識的にせよ、脳のツボを効果的に押す手法を編み出してきたことを著者は次々に例示していく。
「画家は視覚脳の体制化を独自の技法で研究している神経科学者であり、科学的に調べてみると、その作品は科学者がそれまで知らなかった脳の体制化の法則を明らかにしていることがわかる」
脳科学によって究極の美がつくりだされる時代が近づいているのかもしれないなあ。
アカデミーフランセーズ初の女性会員となった「ハドリアヌス帝の回想」の著者マルグリット・ユルスナールの短編集。ギリシア、インド、中国、そして日本。東方に伝わる神話や伝承をベースに紡がれた、幻想的な物語が9編収録されている。マルコポーロの見聞録からしてそうであったように、西欧人が思い描く東方のイメージというのはどこか歪曲されている。神秘的で、美しく、そして残酷にデフォルメされる。ここには本当の東洋には存在しない魅惑の架空オリエンタリズム世界が広がっている。
「老画家汪佛とその弟子の玲は、漢の大帝国の路から路へ、さすらいの旅をつづけていた。のんびりした行路であった。汪佛は夜は星を眺めるために、昼は蜻蛉をみつめるために、よく足をとめたものだ。二人の持ち物はわずかだった。汪佛は事物そのものではなく事物の影像を愛していたからである。」
この世のものと思えぬ完璧な世界を絵画に描いたために、皇帝から死を命ぜられた老画家の最期をえがいた「老画師の行方」は大傑作だと思う。この作品のラストシーンの崇高で幻想的な美しさは、まさに作中の老画家の仕事のように完璧な出来だ。
源氏物語の勝手な外伝ともいえる「源氏の君の最後の恋」は日本が舞台。かつて数多いる情人のひとりであった花散里は、自身の正体を隠して、年老いて盲目となった源氏の傍に仕える。源氏の思い出の中に残されているはずの自分の姿を知りたいという一心で。訳者あとがきによると、原作の時代考証は少々いい加減だったらしいが、名訳によって恋の儚さを描いた印象深い作品に仕上がっている。
最近、毎号買うようになったのがポプラ社の雑誌マザーフードマガジン。
最初に店頭で見た時はそのあまりに大胆なコンセプトに笑いが噴出した。
第00号 キャベツ
第01号 まぐろ
第02号 トマト
第03号 さつまいも
第04号 ねぎ
第05号 かに
第06号 たまねぎ
毎号ただひとつの食材を取り上げて、ひたすらにその話題で最初から最後まで貫き通す。ねぎだっら、表紙から裏表紙までねぎねぎねぎねぎだし、トマトならトマトトマトトマトなのだ。潔い。
編集にこだわっている。まず一流の芸術写真家を起用して、テーマのかに や たまねぎ や さつまいもの巻頭グラビアページを撮影させている。この部分からして、こいつら本気だなと確信させられる。テーマとなる食べ物についての図鑑的解説から、歴史と逸話、日本全国の郷土料理、全国名店の紹介、おいしい料理方法、有名人のコラムなど、読むだけでおなかいっぱいになる。
特に自分の大好物だからということもあるが、3月の「かに」号の出来はあまりに素晴らしくて涙が出そうで、永久愛蔵保存版と思った。カニについての謎が次々に氷解した。
私の好物は特にタラバガニで、カニ食べ放題と聞いて行ってズワイだけだとちょとがっかりなのだが、だから観察眼細かいのだが、タラバは足が6本しかない。ズワイガニは8本である。それがなぜなのか、ずっと気になっていたが、驚愕の答え。実はタラバガニはヤドカリの仲間で正式にはカニではないのだそうだ。まじかよ。がーん。
越前ガニ、松葉ガニはともに種類としてはズワイガニで獲れた場所によってブランド名が違うだけというのもみなさん知っていた?常識?。ズワイはなんといってもカニ道楽的なカニしゃぶが連想されるが、いささか淡白なことが多い。ミソも含めた濃厚さを求めるならケガニであるし、油も使って料理するなら上海ガニもある。触感なら食べ応えのあるタラバだしなあと関西出身のズワイ系妻と口論になってきたが、この本に登場する地方の老舗名店の出すズワイガニは本当にうまそうに見える。タラバかズワイかの結論はこれらを食べるまで保留にしておこう。
ところで知人で元IT企業の社長仲間だった山口さんが、現在はカニ販売ビジネスで有名になられている。サイトを見たところ、御実家が問屋ということらしく、半端でなくうまそうなので近々試してみようと持っている。Tビジネスの専門家が、次に手がける蟹の小売サイトということでWebショップの研究もできそう。
・旬がまるごと マザーフードマガジン
http://www.0510food.com/
雑誌のオフィシャルサイト
・bsmr
http://homepage2.nifty.com/qta/bsmr/index.htm
ノートPCでプレゼン時に突如バッテリ不足の表示がでて、とりみだす講演者をときどき見かける。一杯充電したつもりだったのだろうが、実際にはそうでもなかった。おそらくこういう失敗はタスクに小さく表示される電池容量の表示を見落としやすいということが原因だと思う。
bmsrは電池の残り容量を細長いバーで表示する。このバーは画面の上下左右好きな位置に好きな幅で表示できる。バーにマウスオーバーすると正確な残量が数値表示される。モバイルユーザーは入れておくと、容量チェックのクリックが省けて便利。
「学生時代の恋人が自殺する瞬間迄弾いていたバッハのカノン。そのテープを手にした夜から、音楽教師・瑞穂の周りで奇怪な事件がくり返し起こり、日常生活が軋み始める。失われた二十年の歳月を超えて託された彼の死のメッセージとは?幻の旋律は瑞穂を何処へ導くのか。「音」が紡ぎ出す異色ホラー長篇。
芸術作品に込められた怨念は篠田節子のお得意のパターン。「神鳥―イビス」は見たものにとりつく魔性の絵画がテーマだったが、こちらは聴いたものにとりつく音楽の話である。カノンといえば「カエルの歌」の輪唱が基本だ。単純なカノンは耳に残りやすい。一度脳内で再生されると止まらなくなる。
高度な作品では最初のメロディをリズムを2倍にして追いかけたり、譜面を上下逆さにしたメロディを使うなど、音楽の中に仕掛けがある。この作品では死者が演奏したバッハのフーガの技法「拡大・反行の2声カノン」の録音テープを逆回転させると不思議なことが起きる。ゴシックホラーならぬバロックホラーの傑作。
ときどき亡くなった歌手の話題として「○○さんの曲を逆に再生すると女の人の声が聞こえる」などという噂が広まったりするが、逆回転やスロー再生すると、そこにメッセージが込められていることがわかることは実際に、バッハがやっていたのだ。
早速、「拡大・反行の2声カノン」を購入して、逆再生してみようと思ったがやり方がわからないので検索してみると2ちゃんねるにこんなスレッドを発見した。
・逆向きに聴くビートルズ
http://bubble6.2ch.net/test/read.cgi/beatles/1172971557/
ビートルズを逆向きに再生して感想を報告し合うスレッドが盛り上がっていた。ビートルズはテープの逆回転を効果として作品に取り入れていたため、意外な発見があるそうだ。
・Podcast編集に使えるフリーのオーディオエディタ・レコーダー Audacity
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003714.html
Audacityというフリーソフトウェアを使うと逆再生が可能らしい。このブログを書き終わったら試してみよう。なにか聞こえちゃったらどうしよう。
・弥勒
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005292.html
・ゴサインタン―神の座
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005260.html
・神鳥―イビス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005177.html
先日こんな映画を観てきた。
・映画『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』公式サイト
http://henry-darger.com/
1973年シカゴで貧しく孤独な雑役夫ヘンリー・ダーガーが81歳で死んだ。「ダーガー」という発音が正しいのかさえ実はよくわからない。「ダージャー」かもしれなかった。ダーガーには身寄りがなく、普通の人づきあいというものもほとんどなかったから、そんな基本的なことさえ謎なのだ。ダーガーは何十年間も、仕事から帰ると自分の部屋に閉じこもって何かに取り組んでいたのだが、何をしているのかは誰も知る由もなかった。
ダーガーが病院でなくなる死の直前に、彼の部屋で発見されたのは15000ページに及ぶ自作の小説と、3メートルもある巨大絵画300枚であった。おそらくひとりの人間が書いた
最長の作品のタイトルは「非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコーアンジェリニアン戦争の嵐の物語」。彼は誰に見せるつもりでもなく、睡眠時間さえ削りながら、ただ黙々とこの作品を作り続けていたのだ。
その内容は、子供たちが奴隷にされている世界で支配者に立ち向かう7人の少女軍団が活躍する壮大な妄想ファンタジーであった。そこには自身の不幸な幼少期が重ねあわされている。奴隷はかつてのダーガー自身であったことは間違いないようだ。
巨大絵画はその挿絵である。ダーガーの描く少女たちにはペニスがついている。映画の解説によると、ダーガーは現実の世界で異性と関係することがなかったため、性知識がなかったから、という説が有力らしい。81歳まで無垢に、童貞を守った男だったのだ。登場人物の多くは中性的というか無性的な印象が強い。
絵画は雑誌や書籍の挿絵や写真を切り抜いたり、トレースしたり、コピーしたり、いわゆるコラージュの技法でつくられている。ダーガーは社会と接点を持たなかったが、メディアに写ったイメージの切れ端を寄せ集めて、自身の世界に再構築していた。現実世界とのズレが強烈な印象を与える。
社会的に孤立したダーガーのような変わり者や、自身が作りだしたカルト宗教の信者、精神病の患者、囚人や交霊術師など、専門的な美術教育を受けていない人々が内的衝動のままに作り出すアートが、アウトサイダーアートである。
この「アウトサイダーアート」には30作家140点もの、<外>に位置する作品がカラーで収録されている。ダーガーはこの中ではまだ常識的な表現者であるように思える。明らかに境界を越えてあちらへイってしまった作品ばかりである。
恐怖、歓喜、抑圧、憑依、狂気など、それぞれの強い衝動に駆り立てられて作り出される異端の美術作品群。何かにとらわれていることが明らかな絵を見ていると、中から手がすっと伸びてきて、こちらまでとらわれそうになる怖さがある。
伝統的な美術館に飾られる絵とは決定的に違う。これまでにない価値を創造するという点では、芸術家はみんなアウトサイダーだと言えるかもしれない?。いやいや、このアウトサイドぶりは、そんな普通の同心円の外側じゃないのである。時空を破って歪んでみえるような<外>なのである。
幸田露伴が明治20年代に書いた短編小説「五重塔」を読んだ。衝撃的だった。
これは日本語で書かれた文学の最高到達点のひとつではなかろうか、と思えるくらい。
「木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用ひたる岩畳作りの長火鉢に対ひて話し敵もなく唯一人、少しは淋しさうに坐り居る三十前後の女、男のやうに立派な眉を何日掃ひしか剃つたる痕の青と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとゞめて翠のひ一トしほ床しく、鼻筋つんと通り眼尻キリヽと上り、洗ひ髪をぐると酷く丸めて引裂紙をあしらひに一本簪でぐいと留めを刺した色気無の様はつくれど、憎いほど烏黒にて艶ある髪の毛の一ト綜二綜後れ乱れて、浅黒いながら渋気の抜けたる顔にかゝれる趣きは、年増嫌ひでも褒めずには置かれまじき風体、我がものならば着せてやりたい好みのあるにと好色漢が随分頼まれもせぬ詮議を蔭では為べきに、さりとは外見を捨てゝ堅義を自慢にした身の装り方、柄の選択こそ野暮ならね高が二子の綿入れに繻子襟かけたを着て何所に紅くさいところもなく、引つ掛けたねんねこばかりは往時何なりしやら疎い縞の糸織なれど、此とて幾度か水を潜つて来た奴なるべし。」(冒頭部分)
こうして引用してしまうとやっぱり読みにくそうだ。
旧仮名づかいで漢字や古語の率が高い上、句点が1ページに1,2回しか出てこないような長文の連続という難解な文体であるため、かなり読みにくそうというのが正直な第一印象だった。地の文章も会話文もごっちゃにされている。
ところが、ふりがなも振られた岩波文庫版を、心の中で声に出して読んでみると、案外にすらすらと頭に入ってくる。目ではなくて耳で聞く感じで読むと心地よい。リズムが絶妙なのだ。緩急、強弱をつける技が光る。日本語の響きの美しさ、音韻の妙をここまで自在に操ることができる作家の技量に感嘆する。
不器用な性格ゆえに「のっそり」とあだ名され風采の上がらぬ大工十兵衛が、恩のある親方に対抗して、五重塔建立プロジェクト受注に名乗りを上げる。下剋上にも見える恩知らずな行動は周囲に大きな波紋をひき起こすが、頑なな十兵衛はそれらを黙して乗り越え、ただひたすらに五重塔の建立に全人生をかける。文庫120ページと薄い本だが独特の文体を活かして、静かに情熱に燃える人間の、頑固な生きざまを描き切っている。
先週よりしばらくサーバを落としておりましたが復活いたしました。
情報考学 PassionFortTheFutureは新システムに移行作業中で4月16日まではメンテナンス状態です。過去の記事の一部が文字化け、欠落していたりします。本格再開までもうしばらくお待ちください。
朝日新聞で「天声人語」を13年間担当した元論説委員が書いた文章の上達法。50人以上の有名作家の文章論を引用して、著者が解説をつけていく構成なので幅広い考え方に触れることができる。
「私にはどういう文章を書けばいいかという規格品のイメージがありませんので、これはうまい文章だと思うものをノートに書き抜く。小さいときからつくってきたそういうノートが百冊以上になると思います。」(鶴見俊輔)
「旅行に行って10日くらい書かないことはありますけど、そうすると10日分へたになったなと思います。ピアノと一緒なんでしょうね。書くというベーシックな練習は毎日しないといけません」(よしもとばなな)
「何度も何度もテキストを読むこと。細部まで暗記するくらいに読み込むこと。もうひとつはそのテキストを好きになろうと精いっぱい努力すること(つまり冷笑的にならないように努めること。)最後に本を読みながら頭に浮かんだ疑問点をどんなに些細なこと、つまらないことでもいいから(むしろ些細なこと、つまらないことの方が望ましい)、こまめにリストアップしていくこと」(村上春樹)
大作家たちの多くが毎日書くこと、気がついたことをマメに記録しておくことが上達の秘訣だと言っている。日常の情景描写や心の揺れ動きを書こうとするときに「些細なこと、つまらないこと」が記述に厚みやリアリティを与えるものだが、そういうことって書こうと思ったときにはすぐに出てこないものである。こまめにリストアップという村上春樹の戦術は、プロの文章を見ていて本当に納得である。
同時に武装するばかりが文章術ではないようだ。
芥川龍之介が書いた熱烈なラブレターが紹介されている。読んでいるこちらが気恥ずかしくなるくらい、あからさまに愛を語っている。文章の体裁を取り繕うなんて姿勢はまったくない。文豪が油断している文章だが、どれだけ相手に熱を上げていたかがよくわかる臨場感を感じた(これは名文の例として取り上げられたのではないのだが)。
「気のきいた文章を書くてっとり早い秘訣は『自分がピエロになる。自分の欠点を情け容赦なく書く』である。逆に読み手の強い反感を買うのは『自分の欠点を書いたようでいて、実は自慢話になっている』である」(姫野カオルコ)
本当の自分をさらけ出すことができる人というのは数少ない。ついつい書いているうちに取り繕ってしまう。日々文章を綴るというのは、慣れによってそのガードを少しずつ下げていく練習であるのかもしれない。肩の力が抜けた文章を書きたいものだ。
・PCK
http://www.longtail.co.jp/pck/
CUIプログラムは手になじむと大変便利なのだが、中上級者になっても、やはり面倒なのは引数の設定である。複数のファイルや条件を指定すると、たいへん引数が長くなってしまい、引数を考えること自体が一種のプログラミング状態になってしまう。
PCKはUNIXの基本コマンドを、Windows上でGUIを使って引数設定して実行させるソフトウェア群。機能ごとに独立してプログラムになっている。上記のスクリーンショットは全部のプログラムを並べたディレクトリの表示。機能を表す漢字がそれぞれのアイコンになっているのがユニークであり、使いやすくもある。
機能ごとに設定画面は異なるがこれはファイルの末尾を切り出すTail(アイコンでは「尾」)の設定パネル。GUIでファイルを指定し、数値パラメーターやオプションをGUIを使って簡単に入力できる。
講演や発表の経過時間、残り時間を把握するのに便利なソフトウェア。
講演の机の上に時計があっても、発表をしている人間は話す内容に夢中で、これって何時に始まったんだっけ?何時に終わるのだったっけと忘れてしまう人は多い。というか、それは私です。13時開始で14時終了のようにキリのよい開始終了ならばまだ覚えているが、開始時間が45分だったり、前が押して予定が狂ったりしていると、さっぱりわからなくなってしまう。
初期設定では「講演の開始から」の時間が上段に、「発表時間の終了まで」が下段に表示される(文言はユーザーが変更可能)。さらに発表終了が近づくと2分前などに予鈴を鳴らす。発表が終了すると「質疑応答終了まで」という表示でカウントダウンが続く。それも終わると「講演時間の超過は」となる。学会型発表に最適化されたタイマーである。
発表者が複数で入れ替わり発表をする場合にもこのソフトは便利だ。
・trayzer http://softmania.seesaa.net/
これは気に入った。
アプリケーションのウィンドウを、常駐ソフトであるかのごとく、タスクトレイに格納するソフトウェア。起動すると現在動作中のアプリケーションのリストがでる。収納したいアプリを右クリックで選ぶ。またはアプリのタイトルバーをホイールクリックする。すると、タスクトレイに小さなアイコンが出現する。
あとは普通に常駐ソフトのように呼び出せる。
・NAPALM
http://www.fiastarta.com/NAPALM/
ナパーム弾でデスクトップを焼き尽くしたい気分の時に、デスクトップをナパーム弾で焼き尽くすことができるフリーソフト。起動するとデスクトップにNAPALMの文字が燃え上がる。マウスカーソルが発火するので、振り回すとそこらへんが炎上する。アイコンを炎上させることもできる。
これといった便利な機能はないから特に役には立たないのだが。
特筆すべきはナパーム弾炎上のビジュアル効果を徹底カスタマイズできること。炎上の激しさ、色合い、炎上時間、重力などを自分好みに変更できる。これがやってみるとかなり楽しい。
設定パネルのStyle&artの項目でLoadを選ぶと、演出効果のプリセットが多数用意されていることがわかる。戦争映画にでてくるようなリアルなナパームから、虹のように美しいレインボーナパームなどバリエーションがあって、20分くらい遊べる。
・愛の空間
大変面白い。日本独特の文化である「性行為専用空間」の歴史学。井上章一が10年がかりで書いた傑作。好事家もここまで極めると新学問の開祖といってもよさそう。
敗戦後の時期、皇居前広場は男女の屋外セックスの盛り場だったという衝撃の事実の解説から第一章が始まる。旅館やホテルが空襲で焼かれて性行為の屋内空間の確保が難しく、庶民にもお金がなかったために、当時の若い男女は夜になると皇居前広場で抱き合っていた。朝日新聞には「いっそ都がアベック専用の公園をつくって入場料をとれば、皇居前なども荒らされず、アベックも気がねなくてよかろう。」などという意見が記事になったそうである。
「待合」「蕎麦屋の二階」「円宿」「ラブホテル」など明治から現代までの性行為専用空間の変遷を、メディアの記録や文学の記述を丹念に追うことで検証していく。野山での開放的な交接スタイルから、閉じられた空間での愛の交歓へと移行していく。プロの売春婦たちと客の愛の空間と、素人の男女の愛の空間が互いに影響を及ぼし合いながら、途中に「家族風呂」「鏡張り」「SMルーム」「電動回転ベッド」のような隠微な技術や文化を発達させてきた。
そして西洋のお城風のゴージャスな外観やメルヘン調のラブホテルが登場する。メディアは盛んに新しいホテルの意匠を取りあげた。一方でシティホテルも男女が愛をかわす場として利用されるようになる。戦後の経済発展に伴い、日本人の性愛空間はどんどん進化していった。「性行為専用の空間をもち独特の趣向をこらすのは、日本のみに見られる現象である。われわれが屋内を好み、その意匠にこだわるのはなぜだろうか」。
答えを出すのは簡単ではない。遊郭以来のプロの娼婦たち、素人の男女、メディア、空間を提供する経営者たち、警察といった人々の相互作用を通史的にひも解いて、作者は「場所にこだわった性愛の歴史」を提示してみせる。実に濃厚濃密な内容。
・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html
・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html
・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html
・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html
・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html
・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html
・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html
(読んだのは昨年末でしたが。)
実に8年がかりで手塚のブッダを完読した。
個人的な話だが8年前に会社を作ったときに、オフィスで息抜き用にと思って全12巻を買った。ところが仕事が忙しくて2巻までしか読めずいたら、すぐオフィス引っ越しになり、ドタバタで本を紛失してしまったのである。だから、長いこと私の記憶の中では「ブッダ」はブッダがほとんど出てこない不思議な漫画であった。
と、書くと未読の人にはわけがわからないかもしれないが、このブッダの生涯を描いた漫画は主役が途中で何度も交代する。中盤以降はブッダが主人公として一応活躍するのだが、冒頭からしばらくは、やがてブッダの弟子(あるいは敵)となる人間の話だったりする。読者はそれぞれの人物の視点に一度は感情移入を経験させられるから、後半でいくつもの支流が合流する大河ドラマとしての厚みが生まれるのだ。
手塚治虫は「ブッダ」で本当に描きたかったことって何だっただろうか、読み終わってふと考えた。ブッダの教えを読者にわかりやすく伝えることが目的だったとは思えない。確かに仏教の教義を噛み砕いて説明する部分もあるのだが、実はあまりそういう部分は作者の力が入っていないように思える。悟りを開いた後のブッダの行動はきちんと描くと説教臭いからかもしれない。
むしろ「ブッダ」の面白さは、ブッダを取り巻くわき役たちの野心と冒険に満ちたドラマにあると感じる。これらのわき役たちは仏典に登場する人物もいるが、純粋に手塚の創作キャラもいる。それぞれが主役級の熱い生き方をしているのだが、山場を越えたところで、あっさり死んでしまったりする。そういう登場人物の活躍と死の連続の物語構造が、仏教の教えである諸行無常と重なっている。手塚はそれを意図して全体を設計したのではなかろうか。
「火の鳥」級に読み応えのある一大傑作である。各巻末に寄せられた大物ファンたちの解説も価値。
・シッダールタ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005269.html
群馬県下の山岳アジトにおいて陰惨な大量リンチ殺人を犯した連合赤軍の幹部ら五名が、昭和四十七年二月十九日、ここ南軽井沢「あさま山荘」に押し入り、管理人の妻を人質に、包囲の警察部隊に銃撃をもって抵抗するという、わが国犯罪史上まれにみる凶悪な事件を引き起こした。警察は、人質の安全救出を最高目標に、厳寒の中あらゆる困難を克服しつつ、総力を傾注した決死的な活動により、二月十八日、二百十九時間目に人質を無事救出し、犯人全員を逮捕した。」(「治安の礎」碑文より)。
事件発生時に私は2歳だったので、この世紀の大事件の記憶はない。事件を題材にした映画や小説を通して大人になってから全貌を知った。あさま山荘のドキュメンタリは何冊もある。警察庁特別幕僚の佐々 淳行氏が書いた本などが有名だが、この本は当時の県警本部第二課長が現場側の視点で綴っている。上層部の思惑や権力争いの代わりに、現場の淡々としたリアリティがあって凄味を感じる。
著者は事件を日誌的に記録している。<情勢の分析><警備方針><部隊配置><装備資材><重点実施事項><警備体制>などの項目で、簡潔に事態推移を記録する。人質をとっての籠城戦略の手ごわさが印象的だ。10日後に犯人全員逮捕と人質救出を成功させるものの死者3人、負傷者27人の犠牲を出した。
犯人一味の数は(警察は最後まで把握できなかったのだが)たったの5人。包囲する警察は1000人以上であった。「隊員の二十代の若者らに対して、『明日は死ぬかもしれないが、その危険な任務に就いてくれ』と命じて、それが計画どおりに遂行されること、それは考えてみれば実に大変なことだと思う」(警備本部長)。決死の覚悟の突入現場でどんなやりとりがなされていたのか、案外浪花節であったりするのだが、現代でも本当にそのような場面では、こんな風なのかもしれないな。
なぜ突然この本を読んだかというと、ベルリン国際映画祭では最優秀アジア映画賞と国際芸術映画評論連盟賞のダブル受賞の映画の予習のため。現在公開中。
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD11914/index.html
若松孝二監督。
・あさま山荘事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%95%E3%81%BE%E5%B1%B1%E8%8D%98%E4%BA%8B%E4%BB%B6とても充実した記事。
Flickrの有料会員である私は、写真データを2ギガバイトとか4ギガバイトとか、一度に大量にアップロードする。juplodrは欠かせないツール。機能やインタフェースは他のFlickrアップローダーと似たようなレベルにあるが、なにより便利なのはしぶといアップロード機能。
Flickrに大きなファイルを大量にアップしようとすると何時間もかかるわけだが、回線状態などの影響で途中で失敗してしまうことが多い。オフィシャルを含むほとんどのFlickrアップローダーは、1枚のアップに失敗するとそこで動作が停止してしまう。停止したら再開するようにユーザーは長時間のアップを見守っていないといけないのだ。
juplodrはエラーという弱音を吐かずに、黙々とやり直して動作を続ける。画像でないものをアップしようとしていましたエラーなどはすべての作業が終了した後に出る。だから、就寝前にアップロードをセットしておけば、朝には数ギガバイト分の写真がFlickrにあがっている。
昨年、こんな芸能ニュースがあった。
・布袋、町田康さん殴る
http://hochi.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20070726-OHT1T00101.htm
「布袋と町田さんは旧知の仲で、布袋の曲の作詞を町田さんが手がけたり、布袋が昨年発売したコラボレーション・アルバムにも町田さんは参加している。趣味でともにバンド活動を行ったりもしているが、音楽活動を巡り双方の意見に食い違いが生まれ、トラブルとなったようだ。」
表現者としてエッジがたちまくる二人は実生活でもちゃんと殴り殴られるような仲なのだなあと感心した。作家として権威のある文学賞を総なめにしている町田康だが、その危険なパンクっぷりは本物なのだなと納得した。
これは第九回萩原朔太郎賞を受賞した詩集だ。中身はポエムというよりむき出しのソウル。それぞれ独白から個性的で強烈なドラマが立ち上がる。印象に強く残った作品の出だしを拾うとこんな感じ。
「あいつにかかったら自分なんかもう犬ですよ あれ買ってこいこれ持ってこいって追いまくられて で もう嫌んなって朝から仕事しないで魯迅ばっかり読んでたんですよ そしたら半田鏝で肉あっちこっち焼かれて折檻って感じで しかもあいつホモだったんですよ」(「俺も小僧」より)
「お車代二万円 これをしねしね遣えば、まあ、悪いけどはっきりいって二週間くらいわたくしは安泰 ところがそんなせこいことをわたくしはせぬ オッソブーコの材料代 それに二万円を全部一気に爽快に遣っちゃったい」(「オッソブーコのおハイソ女郎」より)
「経営会議で如何に叱責されようと俺は重役 常務取締役だ 兼、営業本部長だ へへんだ 羨ましいでしょ」(「その俺は重役」より)
体言止めとオノパトペを多用した独特のリズムの文体。声に出して読むことが前提とされているように感じた。あるいはラップミュージックの歌詞のようでもある。日本語の使い方にはこういうかたちもありえるのかという衝撃を受けた傑作詩集。
1 常にカメラとともにあるべし
2 バッテリーは常に切らさないように注意すべし
3 最初の1枚に、真実がこもっている
などと始まるチョートク流カメラ指南十二か条から始まって、カメラの購入アドバイスや正しい工業デザイン論まで、カメラを巡る薀蓄エッセイ集。ところどころに、撮影したカメラが気になる、雰囲気のあるカラー写真が満載。
カメラマン、カメラコレクターとしての芸暦が長い著者だが、まだまだ現役であって話は銀塩懐古趣味には終わらない。「容量の少ないメモリーカードを使うべし」「RAWモード使うべからず」などデジカメ時代ならではのアドバイスがいろいろとあるが、極めつけは「デジカメは1年で2万円分」だろう。(コンパクトカメラの話)
「デジタルカメラは、型遅れでも全然問題ありません。だって、デジカメは3年も使わないんだから。使っても1年半か2年で、それで次のに買い替えちゃう。今のデジカメってそうなんですよ。たかだか1,2年のために、7万円も出すのは嫌じゃないですか。ただし、3年使うならば、7万円ぐらいでもいいかな。つまり1年2万円分だとしたら、3年経ったら6万円ということでしょ。そういう減価償却の考え方をすれば、高いお金出してちょっと自慢しながら、3年楽しむというのもありだと思いますね。」
この「7万円」の、というのはGR Digitalあたりを指しているようだ。私のデジカメ遍歴でもだいたいコンパクトカメラは4万円前後の機種で、2年で(壊れて)買い替えている気がする。この1年で2万円というの数字はかなり適切なのかもしれない。
田中長徳氏は趣味道楽のカメラの人だから、スタイルが無粋なのは許せないらしい。ケータイのカメラについてはこんな風にこきおろす。
「なぜケータイが、カメラのメディアとしてダメか。最近のケータイって性能はいいんです。500万画素くらいあってね。ところが、あの格好がよくないんです。あれを、腕を突き出して撮っていると、「ケータイを持って写真を撮っている人」って意外には全然見えない。「ケータイを持って写真を撮っている人だけど、実はすごい有名なジャーナリスト」だなんて誰も見てくれない。今の世の中で、ケータイを持っている人の姿っていうのは「ケータイを持っている人」以上の存在にはなれない。」
この指摘はかなり正しいと思う。撮る姿がさまになるカメラ付き携帯というのをメーカーは開発すべきであると思った。
4歳の息子がレゴの次にはまった立体ブロック。これを始めると動かない。
大人の私の第一印象はレゴに比べて面倒そうだなあという、どちらかというとネガティブなものだった。小さな、平面的なパーツを組み合わせて立体を作る。汎用的な部品の組み合わせのレゴと比べると、LaQは上と右をくっつけるパーツ、上と左をくっつけるパーツ、上と下をくっつけるパーツのように、パーツの種類が多い。それが最初は面倒そうに感じる原因なのだが。
息子につきあって隣で私もはじめてみると、これがなかなか奥が深くて面白い。平面を組み合わせて立体を作るという原理が、立体で立体をつくるレゴの原理とは違うため、まったく異なるタイプの造形が産み出せる。LEGOを一通り遊んだ後に試すと一層楽しめるブロック遊びといえそう。
上は適当に悪魔?のような形を作ってみた例。
LaQは付属の設計図や市販の本を参考にすると非常にかっこいい造形をつくることができる。
さらに公式サイトには多数の作品の設計図がPDFで公開もされている。
・ギャラリー
http://www.yoshiritsu.com/html/new_sample/new_sample.html