物語の作り方―ガルシア=マルケスのシナリオ教室
現代の世界文学を代表する偉大な作家の一人ガルシア・マルケス(とその仲間たち)が、面白い物語の作り方の秘密を明かす。その秘密とは、意外なことに、みんなで議論しながら共同作品としての物語をうみだしていくという斬新な方法であった。小説についても触れられているが、どちらかというと脚本家養成講座である。
ガルシア・マルケスは、プロのシナリオライターの友人たちとハバナに集結し、30分のテレビドラマをつくるシナリオ教室を開いた。誰か一人が原案をつくって披露する。他の参加者たちが、それに突っ込みを入れながら改善していく。真実味がない箇所や、面白みのない箇所に対して容赦なく他のメンバーから指摘が入る。みんなで修正する内容を発案、提案して物語をよりよいものに変えていく。この本にはその議論が二段組で400ページ分も収録されている。
ガルシア・マルケスは随所で議論をリードする。
「こういうストーリーは、現実というのはどの程度までたわめ、歪めることができるのか、本当らしく見える限界というのはどのあたりにあるのかといったことを知ることができるので私は大好きなんだ。本当らしさの限界というのは、われわれが考えているよりも広がりがあるものなんだ。」
このシナリオ教室では本当らしさを複数の創作者の視点でチェックして完成度を高めていく。具体的な議論ばかりなので、本気で物語を作りたいと思う人にとって参考になりそうである。
これがガルシア・マルケスの才能の秘密かと思う記述もみつけた。
「真の創造には危険がつきものだし、だからこそ不安を抱くんだ。本ができあがるだろう、そうすると、不出来なところを見落としているんじゃないかと不安になるものだから、わたしは決して読み返さないんだ。本の売れ行きや批評家の賛辞に目が入ると、みんな、つまり批評家や読者は何か勘違いをしている、実を言うと自分の本はクソみたいなものだということが明らかになるんじゃないかと不安で仕方がないんだ。それに、妙に謙遜して言うわけじゃないが、ノーベル文学賞の受賞を告げられた時、「へぇー、うまく引っかかったんだな、あのお話を信じたんだ」と真っ先に考えたんだ。」
これだけ大家になっても決して緊張感を失っていない。ガルシア・マルケスは頭の中でも、自分の作品を客観的に評価する批評家がいて、この本の内容のような脳内議論が行われているのだろうなと思った。
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