空中スキップ
文句なしで5つ星の短編集。漠然と面白い読み物を探しているなら、これがおすすめ。
自分を犬だと思い込んでキグルミを来た男に餌をやる家族の話だとか、ある日世界中で子供が生まれなくなってしまった騒動の話だとか、母親のために心臓の提供を迫られる息子の話だとか、普通の世界と少しずれた設定で始まる話が多い。その最初のなにかへんだなという亀裂がしだいに大きく広がって世界を覆いひっくり返す。
収録作品は341ページの本に23編だから、一話あたり15ページに満たないショートショート。奇想天外の世界観に幻惑される読書体験が23回。その短い枠の中で、どの作品にも読者の期待を裏切らない裏切り方が待っている。シュールでブラックな作風だが、同時にどことなくコミカルなので、気分が暗くならずに、次々に読み進めやすいのもいい。
23話中8割くらいの確率で個人的には大ヒットだった。1973年生まれの作家でまだ作品数は僅かだが、たいへんな大物に成長しそうな予感がする。基本は偏執妄想系だが、文体は湿度がとっても低くて、実にあっけらかんとしている。その食感がたまらない。
翻訳もよいのだと思う。
空中スキップの原題は「Flying Leap」。飛びながら跳躍する。まさにそんな読み心地の本だ。私って空を飛べるかもと思いついて跳んでみたら本当に空を飛べてしまってその先にあった物語という感じ。そういう夢のような跳躍を次々にリズミカルに読む短編集という意味でも、この空中スキップという訳語はすごく適切だなと思った。