ちいさなちいさな王様
ドイツでベストセラーの大人のための絵本。
「しばらく前から、ほんの気まぐれに、あの小さな王様が僕の家にやってくるようになった。王様は、名前を十二月王二世といって僕の人差し指くらいの大きさしかないくせに、ひどく太っていた。白いテンの皮で縁取りされた、分厚い深紅のビロードをいつも着ているのだが、おなかのところははちきれそうだった。」
この小さいけれど立派な王様と、平凡な日々を暮らす「僕」が対話する。
王様の世界では、子ども時代が人生の終わりにある。王様の世界では、人はすべてができる大人として生まれ、日々少しずつ小さくなっていく。経験をつむたびにいろいろなことを忘れていく。最初はできたことが次第にできなくなっていく。でも王様の世界では小さければ小さいほど偉いとされるので、ちいさなちいさな王様はふんぞりかえっているのだ。
それをへんだという「僕」におまえたちと大して変わらないのだと返す。普通の人間は大人になるにつれて知識や経験が増える一方で、想像力や可能性はどんどん縮んで小さくなってしまうのだから、と。
そんな出だしで始まる王様と僕の物語は、各章が大人が忘れてしまうことを思い出させるレッスンになっている。途中に十数枚の象徴的な挿絵が用意されていて、王様の世界観に視覚的にひきこんでいく。作画は寓話の絵で定評のあるミヒャエル・ゾーヴァ。(私がこの本を買ったのは、ゾーヴァが気になっていたから。)
装丁もうつくしい本なので、大切な人や後輩へのプレゼントにもよさそう。
「1枚の絵から立ち上がる不思議な物語。笑いに満ちた空間。可愛らしさの奥にちらりと漂う毒気。ただならぬ気配。こみあげる懐かしさ。出版・広告・舞台・映画へとその活躍の場をひろげるベルリンの画家ゾーヴァが日本の読者のために語りおろした、絵について、人生について。独特のオーラを放ち、絵の前に立つ者を立ち去りがたくする作品を発表し続けるミヒャエル・ゾーヴァが自作を語る。未発表作品も含めた代表作45点を掲載。