あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅
「中国残留孤児だった父の半生を追う、奇跡と感動のドキュメント!
日中の国交が断絶していた1970年に、
文化大革命さなかの激動の中国から
奇跡の帰国を果たした28歳の日本人戦争孤児
――それが私の父だった。
二つの国の間で歴史に翻弄された父は、
いったいどんな時代を生き抜いてきたのか?
21歳の秋、旧満州に飛び込んで、10年がかりの長い旅の果てに、
戦争のもたらす残酷な運命と、語り継がれるべき「歴史」の真実を鮮やかに描き出す。
戦争の被害者である父と、加害者だとされる軍人だった祖父、
父を育てた中国の養母と、血のつながらない親戚たち……
いまを生きる私につながる“戦争”の物語とは? 反日と情愛の国のリアルとは?
そして「歴史」は複雑に絡み合い、ひとつの数奇な運命としてその姿を現わす」
今年最も感動したドキュメンタリであった。特に第一部の出来が素晴らしい。自分よりも年下の書き手が、第二次世界大戦をテーマに、こんな傑作を書けるなんてと驚かされた。
著者の城戸久枝は「1976年日本生まれ、日本育ちの」中国残留孤児2世。2世とはいっても「ただの日本人」である彼女は、自分のルーツ探しとして父親の中国での足跡をたどる旅に出た。戦争によって大陸に取り残され、中国人として生き、苦難の末に帰国した父親の物語。
「あの戦争」がぐいぐいっとひきつけられて、間近に生々しく語られる。歴史に対する遠近感が独特の作品である。それは父親の帰国は1970年だったこととが大きい。この家族にとってはそれまで戦争は続いていた。だから遠く離れた「あの戦争」も30数年前の一昔前のこととして語られるのである。だから、30代の著者は自身の人生と地続きの話として、父親の人生も情感たっぷりに語ることができたのだと思う。
映画にもなった漫画「夕凪の街 桜の国」と同様に、「戦争を知らない子供たち」である私たちの世代でも、戦争をテーマの傑作はまだまだ生まれる可能性があるのだなあ。
・夕凪の街 桜の国
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005073.html