高熱隧道
昭和42年に出版された吉村昭の傑作。
昭和11年から15年にかけて行われた黒部ダム第三発電所の難工事を、綿密な取材と調査で再現したドキュメンタリ小説。建設予定地は地元民でも近づかない険しい山奥であることに加えて、温泉湧出地帯で岩盤温度は165度にも達する。その超高熱の地下にダイナマイトを持った人間が入っていってトンネルを掘る。過酷な作業環境に加えて、厳しい大自然の脅威が彼らを襲う。
当然、日常的に人が死ぬ。
つぎつぎに300人の犠牲者をだしながらも、国策の名のもとに大工事は強行されていく。そんな状況のなか、悲壮な覚悟で工事完遂を目指した技師たちの視点で物語は語られる。プロジェクトの前に立ちふさがる技術的な難問を創意工夫と協力で、幾度も乗り越えていく様子は男のロマン、プロジェクトXのよう。
その一方で技師たちの判断を信じて、悲惨な死に方をした労働者たち屍の山が積みあがっていく。それでも工事を進めなければならない技師の心の葛藤。記録文学として淡々と語る文体だが、数ページおきに一人死亡するような内容の過激さに、手に汗握る感じであっという間に読める小説だった。
吉村昭の代表作のひとつに数えらるだけあって、歴史的傑作と思った。ついでに感動するのがコストパフォーマンス。これだけのドラマを420円で買えるのだから文庫本ってえらいとおもう。
ちょうど本の雑誌が文庫特集号を発売している。買ってきた。面白そうな本を正月に読もうとリストアップ中。
「年末恒例の本の雑誌増刊「おすすめ文庫王国」。今年はとことんベストテンにこだわり、人気の桜庭一樹のオールタイム文庫ベストテンから、ブーム到来警察小説ベストテン、はたまた藤沢周平の作品からベストテンを決めちゃう大胆な展開。もちろん企画ものも健在で「文庫版元番付をつくる」や「都内2書店売上ベスト100比較」など。これ1冊で読みたい文庫本が10冊は絶対見つかるでしょう。 」