統計でウソをつく法
「この本は統計を使って人をだます方法についての入門書のようなものである。どちらかといえば、サギ師のための手引書のようなものであるが」とまえがきにあるように、統計にだまされないために、だます方法を教えた本。原著は1954年出版、邦訳は1968年出版だから半世紀のロングセラー。
「統計というものは、その基礎は数学的なものであるが、科学であると同時に多分に技術でもあるというのが、本当のところである。」。たとえば「平均」には平均値(算術平均)、中央値(中位数)、最頻値(並み数)の3種類がある。どれも「平均」として使うことができるが、大きく数字が異なることがあるという基本や、グラフ化することで差異を拡大して印象づけるテクニックなど、実例をたくさん使って説明している。
「米西戦争の間、米軍の死亡率は1000人につき9人であった。一方、同期間のニューヨーク市における死亡率は、1000人につき16人であった。さて、米海軍の徴募官たちは、最近、この数字を使って、海軍に入隊した方が安全だと宣伝していた。」
軍隊には頑丈な成人男子しかいないが、都市部には老人や赤ん坊がたくさんいる。なにもなくても都市部では人が亡くなっている。
「今日では、次のような事柄のどの二つをとってみても、その間にプラスの相関関係を認めることは容易にできるのである。それらはすなわち、大学生の数、精神病院の収容者数、タバコの消費量、心臓病患者数、義歯の生産量、カリフォルニア州の学校教師の給料、ネバダの賭博場の儲け。」
風が吹くと桶屋が儲かる式の三題噺がいくつも作れそうだ。
統計を見るときには
1 誰がそういっているのか?
2 どういう方法でわかったのか?
3 足りないデータはないか?
4 いってることが違ってやしないか
5 意味があるかしら?
というポイントに気をつけよとまとめられている。著者が取り上げた事例は、新聞やテレビ、政府や大学が発表する数字が多かった。権威の発表する数字を鵜呑みにしてはいけないわけだ。
ところで最近、統計で疑問を持ったのが、新聞社発表の、この記事である。
・大学発VBの経営厳しく、55%が経常赤字・06年度日経調査
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20071010AT1C0900409102007.html
「 大学発ベンチャー企業の経営が厳しさを増している。日本経済新聞社が9日まとめた大学発ベンチャー調査では、回答企業の55%が2006年度の経常損益が赤字で、7%は「3年内に会社を売却する可能性がある」と回答した。政府が2001年に1000社育成計画を打ち出した大学発ベンチャーの数は1500社を超えたが、社員や営業ノウハウの不足から事業を採算に乗せられない姿が浮き彫りになった。(詳細を10日付日経産業新聞に)」
詳細な記事を読んでいないので恐縮だが(これは同じ発信者による要約記事)、この記事は統計を使ったミスリードではないか。
一般的に大学発ベンチャーは技術開発系であろう。営業系と違って初年度は赤字になるのがふつうである。また、そうしたベンチャーの多くは大企業への「売却」が目標である。「3年以内に売却」見込みがある企業の中には、成功が見えている会社も含まれているのではないか。さらに言えば、55%が赤字を裏返せば、45%もの企業が黒字なのである。ベンチャーキャピタルの投資成績として考えたら、悪くない数字であろう。そもそもベンチャー市場は多産多死、競争淘汰の中から、少数の大きな成功者がでてくる世界である。平均成績が悪いからといって、全体が悪いと言うことは言えないと思う。