肖像写真
19世紀後半のナダール、20世紀前半のザンダー、二十世紀後半のアヴェドンの3人の写真家の、代表的な肖像写真の差異を分析することで、顔の意味の歴史を考察する本。
「ナダールは自分の好みの人物たちを選び、彼らをできるだけ自由な状態に置きたいという応対をしながら相手を見ていた。ザンダーは、ピンからキリまでの人間のだれにも共感を抱きながら見ていた。アヴェドンは決して冷淡ではないが、善人に対しても悪人に対しても、権力者にも犠牲者にも、できるだけ冷やかで空虚な視線を投げかけた。」
肖像写真の出発点がナダールである。
・Nadar
http://en.wikipedia.org/wiki/Nadar_%28photographer%29
ナダールの肖像写真の作品が多数掲載されている。
「いずれにせよナダールが撮ったのは、貴族でもなく、もともとの金持ちでもなく、自らの知的な能力を磨き、活動させることによって、たんなる知識人ではなく有名人になっていく人びとであった。ナダールによって写真に撮られるとともに、ボードレールによって評価されていく人々でもあった。」
「ひとつの時代を共有する群れのなかから、このような歴史的な意義をもった人びとを差異化し、「同時代のびと」たらしめることこそ、ブルジョワ社会の特質であった。<中略>ナダールの肖像写真が明らかにしたのは、こうした歴史的なブルジョワジーの特徴であった。このエリート主義の社会だからこそナダールは浮かび上がれたのだ。」
まだ写真が珍しい時代では、ナダールに肖像写真を撮られるということは、特別な知識人として列聖されることなのであった。そして、それらの肖像写真を見る者には、その人物が誰で何をした人なのかという前提知識があった。
時代が下るにつれて、ザンダーはさまざまな職業、階層の人々を撮影して分類していった。多様な社会関係にある、有名無名の顔をたくさん集めることで時代を群像として写しだそうとした。
・August Sander
http://www.masters-of-fine-art-photography.com/02/artphotogallery/photographers/august_sander_01.html
多様な職業の人々の肖像作品集が掲載されている。
そして、20世紀のアヴェドンは「20世紀最後の奴隷」や「殺人者」の肖像写真を撮ることで、それが歴史的真実であることを伝えるパフォーマンスを行った。
・Richard Avedon Foundation
http://www.richardavedon.com/
後半の総括部分では、「仮面」と「観相術」というキーワードを使った分析が、肖像写真の被写体、写真家、観客の3者の関係性の変化をうまくとらえていてわかりやすかった。
・Portraits
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005048.html