「世間遺産放浪記」「奇想遺産―世界のふしぎ建築物語」
ユニークな写真集を2冊。
世界遺産とは無縁でそこらへんにありそうだが、よく見ると職人の技が光る価値のある古い建築物を247件も、大きな写真と記事で紹介する。著者はそうした地味だが味のある建築に「世間遺産」という名前を与えた。30年の研究の成果。
「さて「世界遺産」や「近代化遺産」が脚光を浴びる中、社会からはなかなか見向きもされない、これら「世間遺産」たちとの出合いは、筆者自身に強い印象を与えるものばかりでした。長く人の生業やくらしとともにあった、「用の結果の美」としての建築や道具。または庶民の饒舌、世間アートとでも呼びたくなるような不思議な造形の数々...」
著者の狙いは、世界遺産の相対化にあるのだろう。それはかなり成功している。
田舎の田圃の片隅に打ち捨てられた農具小屋や、小川に架けられた名もない石橋、明治の頃に長者が建てた村一番の蔵。どの村や町にもありそうな、ありふれた遺産なのだけれど、TBS世界遺産風、ナショナルジオグラフィック風の撮り方の写真に、著者が調べた由来の解説が付けられると、不思議と風格を帯びて見えるのである。
奇想遺産は、世界の奇妙な外観の建築を集めた写真集。朝日新聞の連載の書籍化。まず表紙の「ル・ピュイ・アン・ブレ」をみて驚く。フランスの奇観というとモンサンミッシェルが有名だが、町はずれの野原に85メートルの岩があって、その上に教会がたてられている様は圧巻だ。
奇想遺産にはシドニーオペラハウス、大阪の通天閣、首里城正殿など、有名な建築も紹介されているが、建築にまつわるエピソード紹介を読むと、知らなかった事実がでてきて驚かされる。この本があると、旅行の計画をたてるときに、ちょっとユニークな味付けができそうである。
こういう世間遺産、奇想遺産って探すと身近に結構ある。たとえば市谷の奇妙なパイプ?橋と釣り堀の景観って、東京の世間遺産として残すべきものだよなあと思う。いつもあの釣り堀を見るとほっとする。