アサッテの人
第137回芥川賞受賞、第50回群像新人文学賞のW受賞作。整理されていない文章に首をかしげながら読み進めると、後半で、すべては計算済みの作者の作戦だったとわかるインテリ文学。
この物語の主人公である「叔父さん」はときどき、今日の世界とは断絶した「アサッテ」の世界に生きている。日常会話の中で唐突に「ポンパ」「チリパッパ」「ホエミャウ」と意味不明の、本人にしかわからない言葉を挿入して周りを驚かす。
叔父の残した日記にその経緯を読み解いていくのがこの小説の筋である。「世界から疎外されている」という意識と「世界に囚われている」という意識はだれしもが持つものだと思うが、その矛盾を突き詰めると逃げ場がなくなる。アサッテにとりつかれた叔父は、より純粋なアサッテを追い求めて、壊れていく。
現実と断絶したアサッテというのは狂気の入口であると同時にクリエイティビティの源泉でもあると思う。アサッテの人で連想したのが最近見た写真集「私は毎日、天使を見ている。」の奇妙な美であった。
エルサルバドルの精神病院の患者のポートレート中心の写真集である。タイトルは患者の言葉である。精神病院をテーマにする写真集は、写真史上はよくあるのだが、最近ではレアである。人権や肖像権の問題があって作るのが難しくなった。患者たちの純粋な、でもどこかアサッテな目が印象的である。無垢でも邪悪でもない、意味が読み取れない目なのである。
・渡邉 博史 I See Angels Every Day. 私は毎日、天使を見ている
http://www.hiroshiwatanabe.com/HW%20website%20Folder/Pages/Angels/Angels%20thumbnails.html
著者のサイトで写真を見ることができる。