吉原手引草
第137回直木賞受賞作。
吉原で全盛を誇った花魁が突然、謎の失踪を遂げる。当時の状況を解明するため、主人公は引手茶屋、遣手、床廻し、幇間、女衒、女芸者など17人の関係者を一人ずつインタビューして回る。それぞれの身の上話にも話は及んで、吉原の人間模様の中に、失踪事件の真相が浮かび上がってくる。
時代劇ミステリなのだが、前半はタイトル通り「吉原手引書」として、当時の風俗文化や廓の組織構造が語られている部分が、大変面白い。花魁と遊びたければ、まずどうすればいいのか、粋な遊び方と無粋な遊び方、気になる料金体系など。遣手婆という言葉があるが、「遣手」とは職業だったのか、とか、本物の太鼓持ち(幇間)とはどんな役割だったのかなど、芸者以外の職業についても詳しい。そうした廓の手引きをされているうちに、数か月前まで、その社会の頂点にいた花魁の失踪事件の全貌が明らかになっていく。
花魁失踪の悲劇が物語の中心にあるが、話し手たちの語り口は、明るくてユーモラスなものばかり。おしゃべりの積み重ねで物語が進行していく。演劇的で軽快なテンポが気持ちがよい。それでいながら真相解明のミステリとしても、結構、緻密に設計されている。実に粋な娯楽小説だったなあという読後感。